老老介護〜鶴ヶ島・夫殺害事件

http://www.care-news.net/saitama/2008/12/28/091118.html
ご近所での事件である。とくに会社からはかなり近い。会社の同僚に言わせるとこの日はけっこうパトカーのサイレンとかが近くで鳴っていたので、なにか事件かと思っていたそうな。私はほとんど気がつかなかったけど。
悲惨な事件である。朝日の地方版の記事なども読んでみた。ほぼ12月に入ってから亡くなったご主人は自力歩行ができなくなっていた。また殺害された前日あたりは夜から10〜20分おきにトイレに連れて行かざるを得ない状態で容疑者の奥さんはほとんど寝ていなかったらしい。たぶん心身ともに消耗しきったうえでの犯行ということなんだろう。
さらにこのご夫婦は今年3月にアパートに転居してきたとかで、ほとんど近所付き合いもなく、介護サービスも利用していなかったという。78歳の体が不自由なご主人を71歳の奥さんが一人で面倒を見続けなくてはならないという現実。たぶん日本中のあちこちで普通にある介護の現場なのだろう。このご夫婦には子どももいたようだ。実際警察に通報したのは、長女夫婦だという。それじゃ、子どもたちがちゃんと親の面倒を見なかったからいけない、みたいな短絡になるか、いやならないと思う。子どもたちにも様々な事情があるのだから。
やっぱり政治、社会、行政の問題なんだろうな。介護サービスを受けていなかった。なぜか、おそらく申請していなかったからだろう。日本の福祉は基本申請主義だから、窓口いっていろいろ手続きしなければサービスを受けられない。このご夫婦はたぶんそれをしなかった。遠くから「自己責任」という声が聞こえてきそうな気がする。
いくらなんでも住民登録くらいはしているだろう、3月に引っ越してきたのだから。その時に窓口で介護保険とかの案内してあげれば良かったのにとか思う。でもお役所は基本縦割りだから、そんな余計なことはしないだろう。個人的な感想だけど、あの役所は福祉系の窓口とか年金とかの窓口では意外と親身な対応してくれるけど、住民登録の窓口のおねえさんとかは、けっこう高ピーで敷居が高かった印象がある。あの感じだと「はい、おばあちゃん、ここんとこちゃんと書いてね」とかで以上って感じかな。
もちろん「介護保険受けるなら、あちらに介護保険の窓口がありますから」くらいの案内しているかもしれない。でもこのご夫婦はいかなかった。そういうことかもしれない。でも70過ぎのご夫婦が、しかもどちらかが体が不自由で、それを一方が介護して生活している。そういう方に公的サービスが付与されないという現実。どうにもやりきれない思いがする。
これが日本の高齢者社会のある種の現実なのである。さらにいえば現在の格差社会の中で、セーフティ・ネットが綻びをみせていて、その網からもれていく人々がどんどんと増えている。公的扶助のセーフティ・ネットの欠陥ということなのだろう。裕福なお年寄りがいる一方で、こうしたぎりぎりの状態で老老介護で疲弊している方々もたくさんいる。
体が不自由で独立歩行ができなくなったご主人を介護し続けた奥さんが、介護に消耗したうえで犯行に及んでしまった。現に身障者の妻を介護している立場としてはなんとも身につまされる。老老介護の現実は、ある意味20年後にたぶん確実にやってくる未来なのである。