K-20 怪人二十面相・伝


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K-20 怪人二十面相・伝 : 作品情報 - 映画.com
土曜日に例のごとくシネプレックスわかばで観る。
たぶん私と同じように50代以上の男にとって、怪人二十面相という名前は、明智小五郎、小林少年、少年探偵団、BDバッチなどともに、少年時代に愛読した江戸川乱歩の一連の小説あるいは、その翻案ものを懐かしく思い出させる。
江戸川乱歩 - Wikipedia
あのおどろおどろしい、ものによってはけっこう陰残な雰囲気をこわごわと、ある時はわくわくしながら読んでいたものなのだ。だから怪人二十面相という言葉にけっこう過剰に反応してしまう。それが21世紀にあっては「K-20」となる。このへんがなんとも微妙である。
すでに何回か映画の予告編を劇場で観ていたのでなんとなく面白そうだなとは思っていた。最近けっこう金城武は気に入っている。「SWEET RAIN 死神の精度」も観た。映画としては今ひとつだったけど、金城の演技というか、独特の雰囲気というのか、けっこう気になってはいた。最近の役者さんにはあまりないけど、この人にはなんというか男の色気みたいなものがあるようにも思う。スクリーンで大アップでこの人が出てくると、なんともすごい存在感みたいなものを感じるのだ。だからとりあえずこの人でていれば、なんとかなるみたいな。スターってそういう部分も必要なんだよなどと思う。だからやっぱり「レッド・クリフ」も観なくちゃあかんなとも思う。
さてと映画「K-20」だけど、これは江戸川乱歩の世界とはまったく異なる。もともと北村想の書いた小説が原作である。北村は江戸川乱歩の「サーカスの怪人」に書かれた怪人二十面相の生い立ちについての短い記述からインスパイされてこの小説を書いたのだとか。

『サーカスの怪人』に怪人二十面相の生い立ちが書かれている。本名は遠藤平吉で、元々グランドサーカス団というサーカス団の団員である。笠原太郎という団員と二代目団長の座を争ったが、争いに敗れてサーカス団を去る。

ということで怪人二十面相明智小五郎、小林少年という馴染みのキャラこそ登場するけど、お話としては江戸川乱歩の世界とはまったく異なる世界である。
内容的には怪傑ゾロとバットマンを足してそれをスピルバーグ的アクション映画(例えばインディ・ジョーンズとか)で割ったような、まあそういう類なものでした。ある種の痛快感とでもいうようなものもあり、けっこう楽しめました。
時代背景が、第二次世界大戦が早期に講和条約をもとに終結して、つまり日本は負けることなく、その結果東京はもとの帝都のまま空襲といった戦禍もなく反映しているという設定。いちおう繁栄をとげて1949年なのに東京タワーらしきものもあり、さらには摩天楼よろしく超高層ビルも乱立しているという妙な時代なのである。
さらに日本がアメリカを含む連合国に負けていないためか、かっての同盟国ドイツの影響が様々な部分に如実に残っているような雰囲気。都会の作りがアメリカ・ニューヨークのような明るく雑多なバイタリティーを感じるものとは異なり、どことなく陰影がちりばめられた古い時代のドイツ、ベルリンみたいな雰囲気を醸し出している。まあ見たこともないけど、あくまで印象批評です。
そしてこの映画のある種の見所でもあるのだが、その1949年の帝都東京の雰囲気がCGで見事に表出されちゃっているのである。その細部へのこだわりも含めてけっこう素晴らしい。CGで昭和三十年代の雰囲気を再現した「三丁目の夕日」のスタッフが結集したということです。
お話はサーカスの軽業師遠藤平吉が謎の男に騙されて怪人二十面相に仕立て上げられ警察に追われる。それからもろもろあって本物の義賊怪人二十面相になっていくという、まあそんな感じか。その成長過程で変装術とかもろもろの怪盗としての技の修行もあり、階級社会の不合理に目覚め、世直しのためにあえて盗賊となることを志すみたいなある種のビルドゥングスロマンみたいな部分もある。笑えちゃうけど。
その辺りの描写が笑えるだけでなくけっこう退屈というかダレル部分でもある。遠藤平吉が匿われる長屋の住人がみんな泥棒だったりして、なんともわかりやすい泥棒長屋なのである。ここら辺りや孤児たちの悲惨な生活を描くところあたりでは、睡魔と闘ったり、こんなことなら「252生存者あり」を観ればよかったとぶつぶつ心の中でつぶやいていました。
しかし後半部分での活劇やヒロインで令嬢役の松たか子とのからみあたりからはけっこうヒートアップしていき最後まで面白く観ることができた。
役者さんは主役の三人が素晴らしい。金城武はとにかく存在感抜群だし華がある。そして敵役、明智小五郎を演じる仲村トオルもクールな探偵役を大真面目にやっていた。それがまたとてもユーモラスでよかった。これは端からの演出、役作りなんだろうけど、そのクールな演技じたいが計算されたジョークみたいでとてもよかった。
そして我等がヒロイン松たか子である。明智小五郎のフィアンセにしてお転婆かつ世間知らずの大財閥羽柴家の令嬢役なのだが、この人の育ちの良さがこういったお姫様役にはピッタリあうのである。年齢的にはこの人三十路を超えているから、お嬢様役はちょっととおが立ちすぎみたいな声もありそうだけど、どうしてどうして、この世間知らずのお転婆令嬢ははまり役である。この人しかおるまいとさえ想う。劇中、合気道だかなんだかを披露したり、はてはヘリコプターまで操縦してしまう。それを遠藤平吉がすごいと感嘆すると一言「良家の子女のたしなみですわ」と答える。これが最高に笑えました。
この映画は金城、仲村、松の三人をキャスティングした時点でほぼ100%成功したようなものとさえ私などは思える。きちんとしたスターを揃えれば、それだけでそこそこの映画ができると、古き良き時代のハリウッド映画のファンである私などは心底想っている部分もある。もっとも80年代のどこかで名優ウォーレン・ビーティ、ダスティン・ホフマン、美人女優イザベル・アジャーニをつかってそれは見事な大ゴケ駄作映画「イシュタール」なんていうものもあったりするから、あんまり法則性はないかもしれないけど。
さらに「K-20」は主役以外も脇を固める役者さんも実力者揃い。國村隼人や高島礼子たちがきっちりしめてくれている。
東宝系正月映画ということだが十分及第点があげられる。家族で観るのにちょうど良いと思う。うちもかみさんどころか小学5年生の娘が「面白かった」を連発していた。
残念なことにはこの映画の最後で明智小五郎が死んでしまうことなんだな。なぜか出来ればシリーズ化してほしかったから。金城、仲村、松の三人でパート2、パート3とかをやってくれればいいと思ったのだけどね。