「容疑者Xの献身」

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ワカバウォークシネプレックスわかばで観る。もちろん家族で観る。気がつけば7月くらいからここで映画を観るのは通算7回目になると娘に教えてもらう。そんなに行っているのかとちょっとびっくりもする。自宅から徒歩で行ける映画館があるというのは本当に便利だし、ある意味至福である。
この映画は何度も予告編を観ていた。なんとなく面白そうというのがその印象。私は観ていないのだが大変人気のあったドラマの映画化なのだそうだ。月9らしい。妻も娘も毎週観ていたようで、よく知っている。主演は人気シンガーの福山雅治、相手役は柴崎コウ
原作は東野圭吾だという。もちろん読んでいない。東野圭吾は昔はよく読んだ。一本読むとけっこうはまる。次々と買いあさり読んだ。でもある時から急に読まなくなる。流行り病みたいなものだ。たぶん最後に読んだのは「白夜行」とかそのへんではないだろうか。だから随分とご無沙汰している。いや卒業したとでもいうべきかもしれない。とはいえ今現在、東野圭吾はおそらく最も売れっ子のミステリー作家といえる。古い喩えで恐縮だが、それこそかっての森村誠一とか赤川次郎とかそういう方々の旬な時代とほぼ同等の売れ方なんだと思う。
ベストセラー作家の原作を人気抜群の福山が主演で演じる。相手役もまた人気女優兼シンガーである柴崎コウである。そして月9の映画化。もうヒットする要素がすべて揃った映画だ。以前の私だったら、もうこの前評判だけでこの映画は敬遠していたかもしれない。でも家族で観るのだし、妻も娘も満足するだろうし、とこういう選択を続けているのが昨今の映画の観方なのである。私も丸くなったと思う。
人気テレビドラマの映画化である、よくて「踊る大捜査線」くらいのエンターテイメントになっていればいいかなくらいに思っていたのだが、これが見事裏切られた。この映画けっこういけている。大作ではないが、なかなかの佳作である。良作である。ネットでくぐると多くの方の映画評でもだいたい同じように絶賛されているのだが、孤独な天才数学教師役の堤真一とその隣人花岡靖子を演じる松雪泰子の演技が素晴らしい。これも映画観た人が口々におっしゃることだが、この二人の演技が見事すぎるために、主役の二人が完全に食われている。
実際、福山雅治柴崎コウは完全に狂言回しになってしまっている。主役は堤と松雪の二人である。もしこの映画が様々な賞をとるとしても主演男優、主演女優へのノミネートはこの二人だろう。結果としてそういうことになったのか、それともキャスティング段階からそういうことが意図されたうえでの演出だったのか、これはまあ一概にはいえないことだ。でもたぶん監督は最初からそれを狙っていたのではないかと思う。
ヒットしたドラマの映画化なのである。脚本、演出にあたってはドラマのカラーを損なわず、そのうえでいろいろ手を代え品を代えと工夫しなくては、映画としてのオリジナリティが出てこないだろう。それが今回の本来の主役二人が脇に回って狂言回しとなり、堤、松雪をクローズアップさせたということか。まあ当てずっぽうだけど。
ただし最後の堤真一の号泣シーンは観ていてこっちもウルウルとさせられたけど、ちょっと過剰な演技、過剰な演出、過剰なシーンだったかなという気もする。もう少し抑えた描写でも良かったかなとも思う。まあ賛否はあるだろうけど。その他気になったところでは、福山と堤が雪山登山をするシークエンス、あれはちょっと余計だったのではと思う。二人がかって山登りを趣味としていたという伏線があまりにも弱すぎるし、必然性がない。
松雪泰子は「フラガール」以降、見事に演技派に転身したようだ。今回の幸薄い女をノーメイクっぽい感じで演じているし、その前にはまったく正反対のタイプであろう、「デトロイト・メタル・シティ」でのメタル系ぶっ飛び社長役をものにしている。もうこの人はなんでもこいという感じだな。
思いついたことをぱらぱらと綴っただけだが、この映画はもうけものという感じだね。まだ観ていない人にはぜひ勧めたくなる映画だ。エンターテイメントとしても、映画の作り込みにしろ、役者の演技にしろ、とにかく穴がない。