スタッズ・ターケル死去

同じ朝日の夕刊の片隅にのっていた。

スタッズ・ターケルさん(米国の作家、社会活動家)
AP通信によると、31日、米イリノイ州シカゴの自宅で死去、96歳。
シカゴ大学法学科卒。ラジオ番組で多くのインタビューを手がけながら、主に後述の人間史を記す手法で多くの著作を残した。シカゴの貧富の差を描いた「アメリカの分裂」や「仕事」など。第2次大戦を現代の視点で批判的に描いた「よい戦争」で85年にピューリツァー賞を受賞した。(ニューヨーク)

オールド・リベラル、アメリカの良識を代表する作家の一人だった。私が最初にこの人の本を手にしたのはおそらく「仕事」だったと思う。沢山の市井の人に自分の仕事について語らせることによってアメリカ人の意識や社会を浮き彫りさせた良作だ。
読んだのはおそらく20代の後半くらいだったのだろうけど、けっこう感動、感銘を受けたルポルタージュだった。当時あの分厚い本を毎日の通勤で読み続けた。東海道線の通勤電車は毎日半端じゃない混雑だったから、あの本片手にというのはかなりハードなことだったと思うし、周りの人にはさぞや迷惑だったこことだろう。でもぐいぐい引き寄せられるようにして読んだ。それからずいぶんといろいろな人に、この本はすごい本だからと薦めたりもした。
この本は私の本棚からは失われてしまった。おそらく何回目かの引越しのどさくさでブックオフに持っていってしまったか、あるいはどこかの誰かにあげてしまったのだろう。今、ターケルの本で唯一棚にあるのは「良い戦争」("THE GOOD WAR")だけだ。これもまた618ページ2段組という大著な本である。第二次世界大戦に従事した様々な人々の戦争体験、戦争観をインタビューしてまとめたものである。アメリカではベトナム戦争との対比の中で第二次大戦がGOOD WARと語られていたが、本当に良い戦争とはあり得るのかという根源的な問いを提示し、戦争の本質を描いてみせた名著だと思う。
今思うとこの「良い戦争」にしろ「仕事」にしろ、こんな地味な力作かつ大著を刊行した晶文社という出版社は良い版元だったなと思う。いや今でもきちんと出版活動されているようだから、「だった」という表現は適切ではないだろうとも思う。でも以前に比べるとあまり元気がないような印象もあるにはある。この出版社には著名な編集者として小野二郎津野海太郎等が輩出した。いずれも後には学者、評論家に転身している。後、一部ではとても有名な名物営業担当もいらっしゃった。確かその後コピー機屋さんが始めた出版社に転出されたような記憶があるが、これは裏覚え的だからまったく確かじゃない。
晶文社、今は亡き草思社、ちょっと固めの本が多いがみすず書房、若い頃はこういう出版社の出版物に魅力を感じたものだね。ターケルの死亡記事を目にして、少しだけ昔の自分、新しい本を読むことに、新しい本を買うことに、新しい本を手にすることに生きがいを感じていた頃のことを思い出した。