大失敗〜転倒

鳥羽水族館で駐車場に戻る時のことだった。やや下りの歩道を車椅子を押していて目の前のちょっとした段差を認知できずに、そのまま駐車場へ出ようとした。その段差が思いのほか大きなものだった。といっても高々10数センチあるかないかだったのだが、かなりの衝撃だった。それで前輪がひっかかって急ブレーキになったのだろう、妻が前に投げ出されるようにして転倒した。目の前で妻はスローモーションのようにして前に倒れていった。不謹慎なようだけど、本当にスローモーションのようだった。
慌てて妻を助け起して車椅子に座らせた。ちょうど近くに通りかかった若いカップルも手伝ってくれた。妻は右側から倒れたのだけどほとんど受身らしい受身もとれていなかった。不幸中の幸いとでもいうべきなのか、特に大きな怪我らしい怪我もなかった。それこそ擦り傷一つなかった。人口骨が埋められた側の頭を少し打ったようだったが、それもひどいものではなかった。
私はその日朝から具合が今ひとつで、水族館に着いてからも二、三度吐いたりもしていた。暑さや疲れとかもあったのかもしれない。そのうえで水族館でも妻を押して歩き、そうしながらも時々は娘のことも気にかけて行動したり。帰る間際でどうにも注意力が散漫になっていたのだろう。普通ならきちんと認識できるはずの段差がまったく目に入っていなかった。妻曰く、「お父さんが段差のところでスピードも緩めないので、びっくりした」。妻も傍らを歩いていた娘もそこに段差があることを認知していた。私だけがまったく目にも留めなかった。
鳥羽の水族館はけっこうきちんとバリアフリーが行き届いている施設だ。一階エントランスからは専用のリフトで二回に行くこともできる。とはいえ駐車場を含めて小さな障碍=バリアはいくらでもある。それは日常車椅子を押して歩いていればどこでも遭遇することだ。いつもいつも緊張しているわけにはいかないにせよ、ポイントポイントではきちんと配慮して行動しなければならないことぐらいわかりきっていたはずなのに、今回の大ポカである。
妻に怪我がなかったのは本当に幸いである。どこかで気が抜けていたんだなという思いと、ゆめゆめこういうことがあってはならないと自分に言い聞かせもした。後になってから左の向うずねがズキズキし始めた。家に帰ってズボンを脱いでみると一、二箇所擦り傷ができていた。おそらく車椅子にぶつけてできた傷だろう。けっこう長くズキズキとしていた。車椅子を押している時は慎重にしなければいけないということを思い出させる痛みだ。身体的な痛みもさることながら、精神的にもズキズキと響いた。