亡き王女のためのパヴァーヌ

ボレロ~ラヴェル:管弦楽曲集 柄にもなく最近はまっている。ラベルである。ラベルといえば、ボレロベジャールの20世紀バレイ団。まあそんな程度の知識しかない。この曲も実をいえば原曲のピアノにしろ管弦楽にしろ聞いたことがなかった。私にとってのこの曲はというとジャズアレンジされたもの。ハイ、LA4のほうでずっと愛聴していました。
なき王女のためのパヴァーヌ(紙)こっちのほうです。
これは愛聴盤の一つです。5年くらい前に大井の図書館で借りてきて焼いたものです。一言でいえば名盤です。ウェストコーストジャズ、あるいはクール・ジャズの入門編としてはうってつけです。いやもっと普遍的にジャズの入門編としてもお薦めです。ジャズ聴いてみたいんだけど何をみたいなことを問われると、反射的に「サキコロ」「クール・ストラッティン」「ウォーキング」「サムシンエルス」コルトレーンの「バラード」ハンコックの「処女航海」あたりからみたいなこと言いますね。ほとんど紋切り型です。時々気をてらって「リターン・トゥ・フォーエバー」あたりを加える。まあここ20年だいたいこのパターンです。
ですがなんとなくですが、軽めにジャズを聞きたいみたいに言われるとですね、このLA4の「亡き王女のためのパヴァーヌ」が意外といいのではないかと、そんな風に思い始めました。クラシックあり、ボサノヴァあり、「枯葉」ありです。でやっているのがローリンド・アルメイダ、バド・シャンクレイ・ブラウンシェリー・マンのカルテット。もうこのメンツだけど、何気にLA4とかいっていってはいけないくらいのビッグ・ネーム揃いでもあるわけだ。レイ・ブラウンシェリー・マン、アルメイダのリズム隊はつけいる隙無しっていう感じだ。
1976年頃の録音だから、ジャズアルバムとしては比較的新しい。ジャズの世界じゃ70年代は古典にならないんだから笑えるな。時代的にはフュージョンが出始めた頃。でもすでに30年以上経ている大昔でもあるにはあるのだが。
LA4はなんとなくなんとなくだけど、オールドネームが集まった企画モノみたいなイメージがあった。だから同時代的にはほとんど聴いていない。当時はジャズ聴き始めた頃だからだろう、ジャズを学習するというわけでもないのだが、とにかく遡って50年代ジャズの名盤を一つ一つ聴いていくのに夢中だった。だもんでLA4なんて色物(当時の半可通若造の認識)聴いている時間がなかったわけ。
ほんでもって図書館で借りてきて聴いたとたんはまりにはまった。ある時期には家でも車の中でもずっとLA4ばかり聴いてたりもした。最近もひっぱりだしてちょくちょく聴いてもいた。で表題曲の「亡き王女のためのパヴァーヌ」を原曲でちゃんと聴いてみたいものだなどと思っていた。
それでよく考えてみたら家に一枚ラベルあったな。「ボレロ」聴きたさに手に入れたものだけど、その中に入っていたんじゃないかと、久々に在庫点検、総ざらいしてみたらでてきた。それが冒頭のやつでした。それで「針落としてみて」とついこう表現してみたくなるのだけど、はいCDです。いいですね。
ラベルはドビュッシーから影響を受けているとか、お互い影響しあったとか、音楽史的には印象派でくくられるとかの話もあるようだけど、けっこう共通点があるかもしれないな。とくにこの曲はドビュッシーの幾つかの曲を想起させる。しかしそれ以上に、この曲にはなんていうのだろうクラシックとしてはものすごく斬新な新感覚みたいなものが感じられる。素人考えだけど、弦の使い方にしろ、管の使い方にしろ、それまでのクラシック音楽とは異なるような新しさみたいな、そんなイメージかな。
それとおそらく、おそらくだけどラベルという人は、ジャズ・アレンジにはけっこうな影響与えているんではないかと、そんな気がする。この「パヴァーヌ」普通に聴いていても、なんていうのだろうドン・セベスキーとかクライス・オーガーマンのアレンジとかと似通ったものがあるようにも思える。当然セベスキーとかが学習したんだろうなと。だから「パヴァーヌ」聴いていると、途中から例えばポール・デスモントのアルトとかヒューバート・ロウズのフルートとかのソロが聴こえてきそうな感じがするのだよ。そう、もうトータルにCTIクリード・テイラー系のイージー・リスニング・ジャズとして聴けちゃいそうなわけだ。
今もずっとiTunesでリピートかけて繰り返し繰り返し、かれこれ2時間近くかけているのだけどちっとも飽きないな。素晴らしい曲だと思います。目をつぶって聴いていると様々な情景を思い描くこともできる。その情景は聴くときの心理状態で、様々に異なるけど、とにかく具体的なイメージとしての情景だ。このへんが印象派系といわれる所以なんだろうか。物悲しくもあり、それでいて凛と澄み切ったストリングスの音色。たまりませんな。
そういえば三木聡の新作「転々」の中で、この曲をかかるショットがあったな。人の家の前に立って中から聴こえるピアノ曲を聴きながら「亡き王女のためのパヴァーヌ」と語りだす、三浦友和扮する借金取りだかヤクザの福原という男。この福原の謎めいた人物像をより強く、深く描くための小道具としての教養アイテムがこの曲だったんだろうけど、けっこう印象的かつ美しく耳に残った。
たまにはこういう美しい曲を聴いてぼーっとするのもいいことだと思う。
モーリス・ラヴェル - Wikipedia
亡き王女のためのパヴァーヌ - Wikipedia