「包帯クラブ」を観る

包帯クラブ [DVD]
例によってTUTAYAで借りてきたのだが。
人は他者の痛みをどれだけ共感できるかどうか。傷ついた人の心を、傷ついた自分の心をどうしたら癒すことができるだろうか。そんな単純でいてとても難しいテーマ。あるいは人は生きていくことで、どんどんと傷つき、あるいは様々なものを喪っていく。そういう引き算の人生から、いかにしてポジティブになにかを積み重ねていく、そんな足し算の人生に変えていくことができるかどうか。
その手の少し気恥ずかしいけれど、とても重要なことを考えさせてくれるいい作品だったと思う。映画的にどうかとか、やれ演出だの演技だのというのではなく、とりあげたテーマが、過不足なくスクリーン上で表現されている映画だ。中盤以降ではけっこうウルウルしながらも最後まで引き込まれるようにして観た。小品ながら良作、佳作、いやなかなかに秀作だと正直思った。
みんなの脱毛 |
包帯クラブ - Wikipedia
傷ついた人の心を癒すため、その人が傷ついた場所に包帯を巻く。ネットのHPに投稿された記事から、その場所にいき包帯を巻く5人の若者たち。それが包帯クラブだ。彼らは包帯を巻いた画像を投稿者にメールし、投稿者の許可を得た画像をHPにアップする。公園のブランコ、サッカーのゴール、鉄棒・・・・・etc。
アホらしいといってしまえばそれまでなのだが、包帯を巻かれた場所のカットを見ているとなにかスコーンと抜けるようなものがある、ような気がする。ある種の癒しの感覚だ。
良く出来たお話だと思い、いくつかぐぐる天童荒太の小説だという。なるほどとも思った。扱うテーマ、題材と泣かせるストーリィ・テリング、通俗に堕ちそうなギリギリのところで踏みとどまるようなそんな原作はまさしく彼らしいかもと何気に思う。『永遠の仔』を読んだ時に同じようなことをを感じたような気もする。
包帯を巻きながらも、包帯クラブのメンバー一人一人が様々な小さな、あるいは大きな傷を心に抱えている。彼らもまた人の心の傷を癒すため、あちこちに包帯を巻くことで少しずつ、少しずつ癒され、回復していく。
行動にできないとしても、傷ついた他者に共感したり、自分の心の傷を癒すために毎日うつうつと小さく格闘している若者たちは、たぶん沢山いるのではないかと思う。いや〜、そう信じたい。
ネットでのレビューを見ても、この映画けっこう高い評価を得ている。こういうテーマの映画ができること自体、世の中まだまだいけるんじゃないのか、などと思いたくもなるのだが。残念ながらこの映画、公開時には興行的に大コケしているのだとか。
http://ameblo.jp/uraurageinou/entry-10049672011.html
一つにはキムタクの「HERO」の影響か。う〜ん、娯楽作品としてはけっこう楽しめる映画ではあったよ、あの映画。それは否定しないけど、映画の質としていえば、かなりの開きがあると思う。
まあふだんから劇場に足を向けることがほとんどない人間が、こういうことを語る資格はないのかもしれないけど、「包帯クラブ」が大ゴケするということが、今の時代のハードで不毛な部分を一つ証明しているのかもしれないと、なにかそんな気もしてしまう。
ここはだね、せいぜいこの映画をDVDで観た人が、口々に褒め称えていく。そんな口コミでの評判で、レンタルDVDのロングセラーみたいなことになればいいなと思う。そうなる資格が十分ある映画だよ。
役者さんについて。主演の柳楽優弥。2004年に史上最年少でカンヌの主演男優賞とった子、くらいの知識しかないのだけど、良かったね。切れ長の目になんともいえぬ魅力がある。織田裕二を若くしたみたいな、そんな印象もないではないけど、とにかくこの子は特別ものがあるなと思う。
ヒロインの石原さとみも不機嫌な今風女子高生役を好演している。少し厚ぼったい唇がとても魅力的。また彼女の友人役の貫地谷しほりは、「スィングガールズ」とキャラが被っている。もともと演技力のある娘なので、このイメージが定着するのはちょっとどうかなとも思う。
あと石原さとみの母親役の原田美枝子、ずいぶんと歳とったなと思う部分と相変わらず綺麗だなと思う部分、そんな相反する印象をもった。いずれにしろ渋いフケ役を好演しているっていうところか。
最後のもう一度書く。この映画は観る価値大の秀作。最近ではお目にかかったことがない泣かせる青春映画だ。もちろん青春映画の良品としての資格「誰も死なない、男と女が寝ない」の要件もきっちり整っています。お薦めの一作。