「ひみつの花園」

ひみつの花園 [DVD]
バーネットの名作ではなく、矢口史靖監督のある意味メジャー第一作目とでもいうべき作品です。
映画の詳細はウィキペディアで。
ひみつの花園 (1997年の映画) - Wikipedia
ウォーターボーイズ」でブレイクする以前、遡ること4年前となる1997年の作品だ。ずっと気になっていた映画で、多分一ヶ月くらい前にダビングしておいたものをようやっと観た。しかし11年も前の映画だったんだね。
お話的にはなんというか、荒唐無稽。お金を貯めたり眺めたりが大好きな女の子が銀行員になり、銀行強盗にまきこまれる。富士の樹海で銀行強盗の車が横転爆発、5億円の入ったスーツケースとともに吹き飛ばされた彼女は九死に一生を得る。それから彼女は樹海の奥底の池に沈んだ5億円を探すために大学に入り、スキューバーダイビングをやロッククライミングを覚えて・・・・。
ある意味ではジェットコースターストーリーなんだろうけど、やっぱりユルイ。矢口ワールドではある。主人公を演じた西田尚美がいい。もっと売れてもよかろうにとも思う。ボーイッシュな雰囲気だがカットによってその横顔とかも本当に少年のような感じがする。なんか「ウォーターボーイ」の妻夫木や「スウィングガールズ」の平岡祐太なんかともかぶる。こういう少年の風情とかは矢口史靖の自身の少年時代へのオマージュなんだろうかなどとわけのわからんことを考える。
しかしこの映画の良いところはいろいろあるけど、その最大のものはというと、「誰も死なないこと」と「男と女が寝ないこと」。昨日観た「サマータイムマシン・ブルース」もそうだったし。そして矢口史靖作品の一番好きな部分でもある。「ウォーターボーイズ」もそう、「スィングガールズ」もそう。
人がほおっておいても死ぬし、たいての場合男と女は寝る。映画にしろドラマにしろ、登場人物が死ねば、あるいは主人公の男と女が寝れば、かんたんにカタルシスが得られる。でもそれをしないでいかにドラマを成立させるか、それが難しいんじゃないかな。
村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の中にこんな言葉がある。ある種のエピグラムのような趣があり、文学的世界観の表出のようでさえある。大袈裟だけど。

鼠の小説には優れた点が二つある。まずセックス・シーンの無いことと、それから一人も人が死なないことだ。放って置いても人は死ぬし、女と寝る。そういうものだ。

私はこの何気ない言葉が好きだし、そういう小説や映画もまた好きだ。また青春映画のこのエピグラム風の言葉を慣用して定義付けたこともある。「秀逸な青春映画にあっては、そう簡単には人は死なない。そして男の子と女の子は寝ない。」
自分の青春時代を思い出して欲しい。中学生から高校生にかけて。誰が死んだかい。毎日、毎日セックスしてたかい。そうじゃないだろう。そんなドラマ的なものとはほど遠くて、退屈で退屈でしかたがなく、重苦しい日常性を背負ってあがいている、まあそういうものなのだと思う。それでいながら、若いから、馬鹿だから、やることなすことみっともなくて、傍目からみれば可笑しくてしょうがない、まあそういものなのだ。
話は逸脱、脱線模様だけど、矢口史靖監督の作品にはそういう掛け値なしのガキどもの滑稽さみたいなものや青っぽいところがきちんと描けているような気がする。だから嫌いではない。『ひみつの花園』もまた嫌いではない。