「死ぬまでにしたい10のこと」

死ぬまでにしたい10のこと [DVD]ずっと気になっていた映画だ。ようやく観ることができた。
23歳の若い主婦アンが突然癌を宣告され、余命2、3ケ月と告知される。17歳でファーストキスの相手の子を妊娠して結婚、出産。19歳で二人目を出産。トレーラー暮らしで夫は失業中。彼女は毎日夜勤の清掃の仕事をしている。
突然の死の通告を前にアンは深夜のファミレスに入ってノートに「死ぬまでにしたい10のこと」を書き出していく。

1.娘たちに毎日愛していると言う
2.娘たちの気に入る新しいママを探す
3.娘たちが18歳になるまで誕生日のメッセージを贈る
4.家族でビーチへ行く
5.好きなだけお酒とタバコを楽しむ
6.思ってる事を話す
7.夫以外の人と付きあってみる
8.男性を夢中にさせる
9.刑務所のパパに会う
10.爪とヘアスタイルを変える

死を描くお話にありがちな涙涙の大業な演技や演出が極端に抑制された静かないい映画だと思う。淡々と主人公の生活を描いていく。そして10の事柄がすこしづつ実現されていく。深夜の車の中でカセットレコーダーを手に娘の誕生日のメッセージを録音し続けるシーンなどはウェットになりがちなのだが、やっぱり妙に抑えられている印象だ。
この映画は細部の生活をきちんと描いているけれど、実はおとぎ話なのではないかと思える。現代の「My life without me」は「私のいない私の生活」とか「私のいない世界」とかまあそんなところだろう。それって家族持ちだったら一度はどこかで考えることじゃないかなと思う。私が死んだら、配偶者はどうするだろう、子どもたちはどうなるだろうか、みたいなことだ。出来ればみんな幸せになってくれればいいなと漠然とそんなことを考えみたことはないだろうか。
私は一度ならずある。そんな人々が自分の死について思うことを具現化させた映画なんだろうと思う。ラストシーン、アンが死んだ後の彼女の周囲の人々の生活がワンカットづつ描かれるけれど、みんなそれぞれの生活を楽しんでいる。唯一、彼女が恋した、そして彼女に夢中になった男だけが彼女の思い出をひきづっている。
人の死はつねに忘却の彼方へ。それが世の常なのだ。それをアンは割り切っている。こんな割り切りができる人間は少ないだろうなとも思うが、それもおとぎ話の世界なのだ。都合よく同じ名前のアンという看護師が隣に引っ越してきて、彼女の死後娘たちの新しいママになりそうな風に暗示される。ご都合主義ぽいかもしれない。でもそれもおとぎ話なのだ。
いくら余命いくばくないからといって夫以外の男性とつきあって真剣に恋をする。アンチモラルという非難もあるかもしれない。でも彼女は17歳でファーストキッスの相手の子を宿して結婚する。夫以外の男性を知ることもなく、なにも考えずに生きてきたのだ。結婚とかとは違う恋のときめきとかも知らないままできた生活。そんな彼女の不倫を責めることはできないだろう。そんな可哀想な彼女が孤独な若い男と恋に落ちて、男を夢中にさせる。それもおとぎ話ではないか。
彼女の周囲の人々は彼女の死後、なにがしかの小さな幸福を得る。彼女に恋した男ですら彼女との恋の思い出を得ることができた。唯一過食症のアンの友人だけが不幸なままなのかもしれないな。あれはどういう人々、あるいは生活の象徴なんだろうな。
人は死を前にして生に執着してあがくのが普通だろう。でもこのおとぎ話の世界でアンという若い主婦は残された人々の幸福を思って静かに死んでいくのだ。その姿はもう天使といってもいいくらいかもしれない。
死をメインにして、自分の生活、周囲の人々のことなどを少しだけ考えてみる。そして出来ればみんなが小さな幸福が得られますようにと祈ってみる。そんな思いを抱きたくなる映画だ。しかし死ぬっていうのは、やっぱり淋しいことなんだな〜。
少しテーマは違うかもしれないけれど、ローラ・ニーロの名曲「and when I die」とかを静かに聴きたくなった。