イージス艦事故を巡るぐだぐだ

イージス艦「あたご」と漁船の衝突事故とその後の海自および防衛省の混迷ぶりにはいい加減へきえきとしてきた。世の中の関心もどうやら例の三浦さんのサイパンでの再逮捕のほうに移りつつあるようだし、イージス艦のほうはぐだぐだのまま記憶の彼方へみたいなことになっていくのだろう。
しかしあの三浦さん再逮捕はなんで今頃という感があるけど、見事にイージス艦事件をぶっ飛ばしてくれた。ひょっとして日本政府が同盟国アメリカに頼み込んだじゃねえのっていう気もしないではないな。もしくはアメリカがこのまま海自を巡るぐだぐだが続くと日米同盟にも亀裂がでるかもしれないといろいろご配慮してくれた結果なのでは。てなわけねえじゃんと思いたいけど、あまりにもタイムリーでしたな。
それにしても今回の海自と防衛省の情報統制の混乱あまりといえばあまりである。朝日の28日2面でそのへんを解説していたので引用しながら、感想を述べてみたい。

イージス艦事故 説明迷走
・漁船の発見時刻 2分前→12分前と変遷
・確認した灯火の色 「2分前に緑の灯」→「12分前に赤い灯」
・航海長を呼び寄せ聴取 防衛省「事前連絡した」海保「事後報告」と食い違い
・けが人の有無 防衛省「ヘリでけが人を搬送」海保「けが人運んだか不明」と食い違い
・情報の公表のしかた 防衛相が自民党国防部会で情報を公表した数時間後、海幕が記者会見で追認(19日、20日

もうこれだけで情報の混乱、姑息な隠蔽工作が行われていたことが自明のことのように思う。しかしそれがあまりにも稚拙なため、整合性がとれずぼろぼろと嘘がばれていく。そのうえでさらに嘘を重ねている感じだ。そのへんのことを朝日の編集委員谷田邦一がこう解説している。長いけど海自、防衛省の現在のぐだぐだをうまく言い当てているようにも思うのでそのまま引用。

<解説>イージス艦と漁船の衝突事故をめぐる防衛省の混迷ぶりは、軍事組織特有の秘密主義に加え、二重三重の別の要因が重なったためと見ることができる。結果的に「隠蔽工作」と映るが、実は誰も全体を把握できていない混沌状態、というのが実相に近そうだ。
背景には?海上自衛隊に対する防衛省幹部の不信?潜水艦「なだしお」事故での海上保安庁の教訓?守屋前次官なきあとの組織の脆弱さ−など少なくとも三つの要因が挙げられる。
とりわけ海自に対する省内部の根深い不信が、組織のありようをゆがめているようだ。最近では、インド洋補給活動で給油量の取り違えを知っていながら隠していた問題の衝撃がまだ生々しく残っている。
陸海空3自衛隊の中でも「海は隠蔽体質が強い」(局長経験者)とされる。海難事故では過失を認めたほうが降りになるため、「降りな証拠は積極的には出さないという体質が染みついているのでは」と指摘する海自OBもいる。
海自が都合の悪い事実を隠した事例は枚挙いとまがない。だが末端の退院やその上官の処罰が行われても、組織全体がもつ根本的な体質の見直しに至っていない。
まt、あこうした危機時に防衛相を補佐するのが、事務次官や局長級を務める防衛参事官ら内局幹部の本来の役目のはずだ。ところが、事故の内容を性格に公表すると同時に海保の操作にも適切に協力する、そんな当たり前のことさえできず、石破防衛相のリーダーシップにすがっているのが実情だ。
「守屋前次官が長期にわたり後継を育てなかった弊害」(省幹部)とも言えるが、舞各な脅威がない中で軍事組織としての緊張感や使命感が薄れていないか。真の慢心の原因がどこにあるのか、省をあげての再点検が必要だろう。

ポイントを的確にとらえた解説だと思う。しかしこのとおりだとしたらわが国の防衛事情はお粗末きわまりないということにつきることになる。「結果的に『隠蔽工作』と映るが、実は誰も全体を把握できていない混沌状態、というのが実相に近そうだ」。ほんとうにそうか。全体把握ができえない組織、情報がきちんとトップにあがらず、その意思決定を阻害している組織。本当にそうなのだろうか。
これが普通の官僚組織、あるいは会社組織であったとしたら、まだ許容できるのかもしれない。いや企業でこんなことやっていたら厳しい市場競争に太刀打ちできない。しかし、この混沌組織はただの組織ではない、軍事組織、そう軍隊なのである。
「お前らそれで本当に国が守れるのか?戦争できるのか?」
私の感想はこれにつきてしまう。これが長年に渡って交戦権を禁じた憲法の下で増殖してきた戦後日本の継子的存在、自衛のための軍隊であって軍隊でない軍事組織=自衛隊の成れの果てということなのだろうか。戦争をすることを許されない軍事組織として一度も戦争を行ったこともなく、人殺しさえしたことのない軍事のセミプロたち。そうした緊張感のないまま軍事官僚組織が無責任体質を抱えて肥大化した。そういうことなのだろう。今こそはっきり言っちゃうぞ。
「税金泥棒!!」
しかし困ったことだよな。これが世界でも有数の軍事力を保有する軍事組織の実相なんだとしたら。わが愛すべき隣人にして唯一無二の仮想敵国北朝鮮にしろ、今後ますます超大国化していくだろう経済的躍進著しい中国に対しても実は抑止力となっているのは日米軍事同盟の存在なんだ。極東駐留アメリカ軍及び自衛隊の軍事力は中国の軍事力をいまなお上回っている。だからこそ中国は国力増進のため経済力拡充に邁進しているのだ。もし極東での軍事バランスが崩れたとき、中国が台湾に対してより強い影響力を行使したり、朝鮮半島や東南アジアに対しても影響力を行使する可能性だってあるのではないかと思う。
中国という国は自国を世界の中心国家だとする中華思想ナショナリズムをもっている。さらにもともと自国内に様々な民族を内包しているから、民族間の紛争や自治・独立といった内紛を抱えている。そうなるとやることは一つ外に対して敵を作り、どんどん膨張していくということ。そういう可能性をもっている国なんじゃないかと思う部分もあるわけだ。ましてや市場経済主義導入しながら共産党一党独裁を続けている国なわけだしね。
実際、自衛隊がこの体たらくでは困るんだよな。なんのために庁から省に格上げしたのか。世界でも有数の軍事力を維持するために予算規模だってずっと拡大してきたんだろうに。最新鋭のイージス艦つかって漁船一隻沈没させるくらいのことしかできないのだったら、それこそその金を介護保険に回せよ、身障者のリハビリ施設作ったり、OT、PTの人員増のためのインフラ整備しろよとそれこそ共産党みたいなこと言いたくもなるぞ。
さらに思うことだけど、今の世の中はほんと平和だと思うよ。もし戦前の日本海軍が同じような事故やっていたら、たぶん情報は一切出さないよ。軍事機密だろうみんな。漁船への補償とかもうちうちにやるかもしれない。あるいは軍隊さまだからぶつけられた漁船が悪い、お国のためだ我慢しろみたいな感じで一切やらないかもしれないな。戦後の、民主主義がとりあえず機能しているから、海自よりも海上保安庁のほうが優位にたっていられるんだよな、たぶん。
海自の本音ってたぶんそのへんにあるんじゃねえのかな。「国を守るべき軍隊の俺らが、どうして海上保安庁ごときに、国交省管轄の組織に取り調べられなきゃいけないんだよ」みたいなのが現場的本音だったりして。
しかしだよ、「全体誰も分からぬ」軍事組織の脆弱さが毎日新聞紙上に乗っちゃうのってそれこそ真の軍事機密の暴露みたいな感じで、ほんとにまずい。張子の虎だって張子って分からなければ一応の抑止力になるのだから。今回の事件報道を海外ではどう受け止めているんだろう。どっかの国の首領様あたりが、これはいっちょうチャンスだから、また日本海あたりで拉致とか麻薬の陸揚げとかやったろうかみたいなことを思わなければいいのだけど。