『となり町戦争』を観る

となり町戦争 [DVD]
映画化されていたことはなんとなく知っていたし、DVD化されたのもレンタル店の新作棚とかで見ていた。でも手にとることさえしなかった。あの小説の映画化は相当に難しいだろうと思っていたから。あの静的な小説世界、浮揚感の少ない淡々とした描写の連続を映像化してもたぶん退屈なものにしかならないだろうみたいなことを漠然と考えた。
小説についての感想はずいぶん前に書いている。2005年のことだからおよそ3年前になる。今読み返しても過不足のない感想文になっているから自己リンクというかそのまま引用。
http://d.hatena.ne.jp/tomzt/20050401/p1
それでは映画の感想はというと、まあ予想どおりというかなんというか、ちょっとした失敗作っていうところかな。リアリティのない戦争に巻き込まれていくことで様々に失われてしまうもの、そういう原作がもっていたはずのテーマ性がどんどん後退してしまい、安っぽいメロドラマに堕してしまっている。それが失敗のすべてだと思う。
さらにいえば主演の江口洋介が完全にミスキャストなんだと思う。原作を貫くきわめて静的な世界、その中で主人公もまた物静かなややひ弱な男性像だったと思う。それに対して江口洋介はというと、まあこの役者さんはある意味一貫して動的な、アクティブな、熱血的なタイプの人である。このギャップが最後まで埋まらなかった。江口洋介を主演にすえたために原作にはおよそないキャッチボールやバッティングセンターに興じるという意味のあまりなさそうなカットが積み重ねられる。
さらに年齢についても原作では主人公は30前後のはずなのだが、江口の実年齢はたぶん40近くになるはずだ。そのためか映画の中での主人公はどうみても35前後という風に見える。これもちょっと違いすぎるという感がある。それではこの主人公、誰だったらみたいな話になると誰かが書いていたけど、オダギリジョーとかユースケ・サンタマリアあたりなのかもしれない。ユースケはかなりありだと思うが、個人的にはSMAP草薙剛あたりが適役のような気がするな。
では女優はというと、舞坂町役場戦争推進室の職員香西瑞希を演じているのは原田知世。彼女もたしか40代くらいになるのでこの役をやるには少しばかりとおがたっているのだろうとは思う。でもこの人の場合はそれが許されるような気もする。なぜ?原作のイメージをけっこう保っているから。そしてそれ以上に女優だから、年齢は関係ないとあえて言い切る。そしてこれが一番の理由なんだけど、私が実は根っからの知世ちゃんのファンだから、アハハ。もうデビュー作の『時をかける少女』のときからずっと好きなものですから。とりあえず知世ちゃんなら許せるのだ。
しかも知世ちゃんはいつの間にかいい女優さんになっている。雰囲気があり繊細な演技、ちょっとした表情、しぐさ、もうきちんとした一枚看板の女優さんだと思うわけ。知世ちゃん立派になったね、みたいな感じです。もうこの人だったら極端なこといえば、セーラ服きて女子高生役演じても許すよ、女優だからね。
なんかいきなりミーハー的に原田知世大絶賛みたいになってしまったけれど、ある意味この人が出ていることが唯一のこの映画の救いみたいな部分もあるにはあると思った。スーツ姿で一生懸命クールな町役場の職員やっていて、なんとなく微笑ましかったりもしました。この役は他の女優さんだったら誰かな〜というと、とりあえず知世ちゃんで観ちゃったからあまり他の人を思い浮かべることができないな。まあしいていえば中谷美紀とかそのへんなのかな。いずれにしろスレンダーで肉感的なものがない人っていうイメージかな。
静的で実態の見えない戦争、それに巻き込まれていく主人公たちもまた静的で人間臭さがない、存在感の薄い漂泊しているような存在。それが原作の持っているイメージなんじゃないかと思うわけだ。