デイビッド・ハルバースタム死去

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私にとってハルバースタムは、一にも二にも『ベスト&ブライテスト』の著者だということ。学生時代のどこかで、たぶん川本三郎あたりの評論からニュー・ジャーナリズムという新らしい潮流の紹介を受けた。日本では沢木耕太郎の『テロルの決算』、アメリカではゲイ・タリーズの『汝の父を敬え』、カポーティの『冷血』、ノーマン・メイラーの『夜の軍隊』などと一緒に読んだ。そしてもっとも感銘を受けた。ノンフィクションとはこういうものだとつくづく思ったものだ。
ニュー・ジャーナリズムは皮相的には、それこそ見てきたような描写とか、人物の内面にまで入り込んで記述するなど、それまでのルポルタージュが客観描写を常としてきたことへの対極的手法といわれた。そうした主観的な描写はある意味では沢木耕太郎などのルポのように、ほとんど私小説みたいな雰囲気さえしていて何か矮小化されたような感もあった。
それに対してハルバースタムの『ベスト&ブライテスト』にも大きなスケールを感じさせた。それは膨大な資料にあたり、取材を重ねたうえでの圧倒的な記述だったからだ。ケネディ政権下に集った聡明にして英知あふれるエリートたちが、ベトナム戦争の泥沼に国家をひきずりこんでいった経過を克明に描ききったこのルポはノンフィクションの傑作というだけではなく、トータルな意味でほとんど歴史叙述としての傑作と呼ぶべき作品だったと思う。
ハルバースタムはその後も力作を次々と発表していった。きけばベトナム戦争をテーマにした作品を書き上げたばかりの突然の死だったという。彼のような骨太のノンフィクション作家はなかなか出てこないのだろうなとも思う。
『ベスト&ブライテスト』を本棚から取り出して、この本を刊行したサイマル出版会のことをふと思い出した。翻訳会社サイマル・インターナショナルがやっていた出版社だった。良質な翻訳物を多数出版していたが、たしか1996年頃に業績不振で出版業から撤退した。『ベスト&ブライテスト』の巻末にある刊行リストにも懐かしい本が幾つもリスト化されている。『狂ったサル』『高校放浪記』『黒い性・白い性』などなど。これもまた懐かしいある時代の産物なのだろう。
『ベスト&ブライテスト』はその後、朝日新聞社から再刊されたという。サイマル・インターナショナルはベネッセ傘下で細々と営業しているという話だ。
ベスト&ブライテスト〈上〉栄光と興奮に憑かれて (朝日文庫)ベスト&ブライテスト〈中〉ベトナムに沈む星条旗 (朝日文庫)ベスト&ブライテスト〈下〉アメリカが目覚めた日 (朝日文庫)