国リハへいく

妻の身障手帳は昨年4月に交付されているのだが、肢体については一年後に要再認定となっている。普通、1級と認定されるとほぼずっとこの認定のままであるらしい。これはこの間、何回か役所の福祉課でも聞いてみたのだが、窓口の担当者はたいてい「普通はあんまり再認定とかないんですけど」みたいな話をする。妻の場合、年齢が若いということもあり、要再認定ということになったのだろう。
役場では、再認定用の診断書をもらっていたので、また国リハの先生に書いてもらうことが必要になった。そうなるとまた外来受診しなければならない。それで半休をとり妻と二人朝一で病院へ向かった。妻は等級が下がったら嫌だから、あんまりよくなっていないといわなくちゃみたいなことを車の中で言っていた。ここのところ妻の回復の度合いはいいし、ある程度の距離を杖歩行で歩くことも普通になってきた。歩く速度も以前に比べるとそこそこ早くなっている。そういう意味では、等級下げられる可能性もあるのかもしれないとも思った。とはいえだ、妻の左腕、左足の機能に少しでも改善がみられたかというと、これはまったくないのだ。前回身障手帳用に書いてもらった診断書では、左上肢、左下肢の機能全廃という文字が妻の状態をすべて物語っている。それ自体はまったく変わらないことなのだ。
病院では、久しぶりに主治医の先生の受診を受けた。診断書の用件を伝えると、その場で妻や私と話をしながら、診断書を書いてくれる。このへんがこの先生の有り難いところだ。普通だと、診断書を依頼するとたいてい後日ということになる。妻が最初に入院した医療センターなんかだとたぶん二週間以上かかる。それが国リハのこの先生の場合だと、一回の受診ですんでしまうのだから本当に有り難い。
先生は相変わらずつっけんどんだが、この先生ならではの親身な対応で接してくれた。こちらも「先生のお陰でずいぶんと良くなりました。最初こちらにお世話になった時には、ここまでよくなるなんて思いもよらなかった」みたいなことを話した。先生もまた「こっちもそう思いましたよ」みたいなことを言った。それから手帳のことで等級が下がったら困るみたいなことを言うと先生は「そのへんはうまく書いておくから」みたいに答えてくれた。
私は当初妻が退院したら家事とかを少しでもこなしてくれるようになったいいと考えていたこと、妻の希望は近所まで一人で買い物にいけるようになればということだったことを話した。それが今はある程度現実的になりつつあり、家事もヘルパーの見守りで少しづつ行えるようになったこと、近所に一人で買い物にいったり、歯医者に通ったりできるようになった。そうなると欲がでてきて、会社への復帰とか考えつつあることを先生に伝えた。
先生は通勤が可能かどうか、まずはそれが一番だとしたうえで、妻の前職を聞いた。こちらが経理だと答えると、注意の問題があるから少し難しいかもしれないが、会社の受け入れ体制とかそのへんのこともあるので、会社に相談してみるようにと言われた。ただし、話の基調としてはやはり職場復帰は難しいだろうというような感じだった。それよりもたとえば今毎日きているヘルパーの回数を減らすことや、将来的にはヘルパーなしでの生活、そういうものを含めたうえでの主婦としての家事での自立を目指すべきではみたいな話をされた。
妻がその他に車の運転とかもやってみたいという話をしたが、さすがに先生も運転については注意障害の問題があるので難しいだろうと断言された。それこそ「それは今のディスカッションの外だな」みたいな言い方で、職場復帰や家事での自立とはまったくレベルの違うこと、およそ問題外みたいな感じだった。
診断は三十分くらいで終了。最後に先生も「病棟に顔出すんだろう」みたいに言われたので、「はい」と答えた。それから会計をすませ診断書をもらってから、まずPT、OTに顔を出して、それぞれお世話になった療法士の先生に挨拶をした。次に売店でリハビリ・シューズを購入してから神経内科の病棟に顔を出した。見知った看護師さんや看護助手さんと話をした。みんな妻のことを覚えていてくれて親しみをこめた対応をしてくれた。みんな口々に「普通の人みたい」と言ってくれた。それはある意味、脳に障害を負った患者にとっては最大級の賛辞かもしれないなと思った。妻が最初の外泊から戻った時に間に合わずそそうしたことがあった。その時にかいがいしく妻の介助と後始末をしてくれた若い看護師さんが、妻のことを一番懐かしそうにいろいろと話かけてくれた。妻とその看護師さんが話ているのを聞きながら、この人にもずいぶんとお世話になったなと思ったりもした。
病院を出てすぐに自宅に戻り、その足で役場へ行き診断書を提出し、幾つかの申請書類を書いた。半日で診断書の作成依頼、入手、役場への申請までがすべて終わったことは本当にありがたかった。昼前に役場での申請も終わり、その後は職場へ。通常業務の半日を過ごした。