マッカーサー

マッカーサー [DVD] なかなかDVD三昧とはいかない日常を送っている。とはいえ久々暇をみつけて自室で鑑賞した。グレゴリー・ペック演じるマッカーサー。製作は1977年。ちょうど学生の頃で、映画に興味がありしかも現代史とかをかじっていた頃だ。なのにこの映画この齢までずっと観ることなくきてしまった。ペックがマッカーサーをやるという話を映画雑誌で読んだような記憶もあるのだが、そもそもこの映画、日本で公開されたのだろうかという疑問もある。
78〜82年くらいの頃って、ある意味じゃ人生の中で一番映画観ていた時期でもある。年間200本前後観ていたし、新しいものは毎週1〜2本観てたし、土日は名画座通いで一日4〜5本なんてこともざらだった。なのにどうしてこの映画ひっかからなかったのかな〜と不思議に思う部分もあるのだ。
映画自体はとくに取り立ててどうのこうのという映画ではない。戦争映画である。軍人さんの伝記ものである。グレゴリー・ペックが重厚な演技をみせている。ある意味、それにつきるといえるのではないか。http://blogs.yahoo.co.jp/t_yasiki/1422026.htmlこちらの方がB級映画と一言で切りすてていらっしゃるが、それはそれである。サミュエル・フラーロジャー・コーマン、スティーブ・カーバーなんかのB級映画を楽しんできた世代からすれば、この映画はB級映画の基準でははかれない、きわめてまっとうな映画だとも思う。
次にこの映画、きわめて史実、あるいは史実として伝えられているダグラス・マッカーサーの様々なエピソードを忠実に取り込んでいる。日本占領化のエピソードは幣原首相との会談で、幣原が憲法九条の戦争放棄条項のアイデアを涙ながらに提案するシーンがある。憲法九条は誰のアイデアだったのかは、現代史の謎の一つであり、確かに幣原提案説というのもあったように記憶している。たぶんマッカーサーの伝記でもそういう記述があったのではないかとも思う。
日本占領化の様々な様子をこの映画ではマッカーサーと妻が映画の試写室でニュース映画で観ているシーンに凝縮させている。ずいぶん安易な描き方だなとも思うのだが、ウィキペディアにもそういう記述がある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%BC#.E8.B6.A3.E5.91.B3

マッカーサーの趣味は映画鑑賞だった。日本占領時も、宿舎であるアメリカ大使館の映写室に通い、日曜日の夜以外の毎日上映されていた。好きな映画は西部劇、コメディ、ミュージカルなど明るいものであったが、ニュース映画も欠かさず見ていた。

まあこれも史実に忠実なうえでのスクリーン・プロセスだったのかなとも思う。日本人としてはもっと日本占領化のエピソードを膨らませてほしかったと思う部分もあるが、この映画は軍人マッカーサーを取り上げた映画であり、日本占領化に皇帝のごとく君臨した政治家マッカーサーにはあまり興味がないということなのだろうか。
この映画でも出てくるけれど、とにかく自尊心、自己顕示欲の塊みたいなところのある人だったのだろう。ウェストポイントでの成績はウェストポイント史上でも一、二を争うほどの秀才であり、これまでで最も若い五十歳で参謀総長に就任するなど、軍人官僚としてはエリート中のエリートなのになんでこんなに目立ちたがり屋なのと思う部分もある。でも逆にいえば、超エリートだからこそこの自己顕示なんだろうなとも思った。
とはいえ昔々現代史だの、戦後史などをかじった者としては、もう少し占領化でのマッカーサー元帥の活躍を観てみたかったな〜とも思う部分もあることにはある。学生時代に論文のための文献集めでガンサーの『マッカーサーの謎』を探し歩いて都立大の古本屋で見つけた時は小躍りしたもんだったよ。確かなんかの伝手を頼って都立大までいったんだよな。おまけに三十年前なのに、ボロボロの本(状態悪かった)なのに3000円くらいして、けっこうしんどい思いをして買ったことなんかがなぜか昨日のごとく思い出される。
それでは政治家としてのマッカーサーはどうだったのだろうと今さらのごとく考えるのだが、この人は実はねっからの軍人さんなんじゃないのかなということだ。対日占領政策にしても、いかにしてソ連の影響をはねつけるかという観点からはじまったんじゃないかとも思えるし、間接統治で、民主主義施策をどんどん押し付けていったのも、その過程でニューディールみたいなアメリカ本国でもすでに捨て去られてしまっていたような進歩的施策を打ち出していったのも、ソ連=共産勢力へのアドバンテージを握るためだったんだろうなとも思う。そういう意味じゃ徹底した軍人さんだったということなんだろうな。戦略、戦術に長けた軍人さんていうことよ。
 そのへんのことをこの映画は、それなりにきちんと描いていたようにも思う。どちらかといえば、徹底した反共主義者にして保守派、共和党系のタカ派であるマッカーサーを、リベラルなグレゴリー・ペックが演じるのは、若干ミスマッチという気もしないではない。でもペックはきちんと演じきっている、見事なまでに。ただね、どことなくだけどベックはマッカーサーという人物にあまり良いイメージをもっていなかったんじゃないかなという思いがする。何となくだけど、彼の演じたマッカーサーにはベックなりの、距離をおいたというか、客観視した視線みたいなものが感じられた。ベック=マッカーサーは後頭部にへんな形での剥げが露出している。それを隠すでもなく、露悪的なまでに描いている部分に、なんとなくベックなり、この映画の演出においてのマッカーサーへの感情移入を拒絶し、批判的に表そうとすることへの象徴性みたいなものを、少しだけ感じた。まあ、あてずっぽうだけどね。