お約束のこととはいえイングランドがまたまたPK戦で負けた。今回のチームはそこそこタレントが揃っていたので期待していたのだが。それにしてもあの精神力の弱さはなんだ。強シュートが売りのランバード、ジェラードの自信のなさ、もう絶対にこいつら外すよって思ったら案の定だ。PK決めたのがハーグリーブスだけというのはあまりにも情けなかった。
今回のチーム、タレントはいたけどチーム戦術がまったくなかったな。エリクソンって名監督なのかって考えさせられたよ。決勝トーナメントに入ってから急に4-5-1システムにして病みあがりのルーニーをワントップにしたこと。これも解せなかったな。
ポルトガル戦についていえば、ルーニー退場後にクラウチワントップになってからの方が前線でタメができていた。そう、クラウチのほうがコンディションもよかったということだ。なぜ彼を先発で使わなかったのか。結局ね、結論が出ているのよ。エリクソンはさあ、ベッカムとジェラード、ランバードを一緒に使うことに執着してしまった。これがイングランド敗退の最大の要因だな。ベッカムは明らかにコンディションが悪かった。せった状態できちんとしたクロスを一つもあげていないんじゃないかな。プレースキックがチームにとっても有効な武器となるとはいえ、あのパフォーマンスでは。
そしてランバードだ。けっして調子が悪かったわけじゃないのだが、いいところに走りこんで絶好のシュートを何本も外しまくっているうちにどんどん自信を喪失していったって感じだろう。ポルトガル戦の時のランバートはなんか目つきがおどおどしているような気さえした。ただ動き自体はけっして悪くはなかった。そこがベッカムとの違いだ。けっして消えるということではなかった。
それに対して他の中盤のプレイヤーはというと、ジョー・コールは独特のフェイントやドリブルで攻撃のアクセントを作っていた。ジェラードは攻守にわたって孤軍奮闘していた。そしてハーグリーブス。ポルトガル戦では初めてアンカーとして中盤の底をまかされて最高のパフォーマンスを見せていた。もしイングランドが勝っていたら彼がマン・オブ・ザ・マッチに選ばれていたんじゃないかとさえ思えた。中盤での守備と時折前線に攻めあがった時には決定的な形に近い攻撃を見せた。プレミアではなくバイエルンでプレーするカナダ出身のこのユーティリティ・プレイヤーをこのチームの中心として使っていたらイングランドはもっと面白いチームになっていたんじゃないかという、タラレバの夢想を抱いてしまう。
イングランドは当初から中盤は右からベッカム、ジェラード、ランバード、ジョー・コールという布陣で前線はオーエン、ルーニーのツゥートップが基本形だった。しかしジェラード、ランバードが共に攻撃好きのため中盤でのバランスが悪くなった。そのための苦肉の策がフォワードをワン・トップにして、中盤4人の後ろにもう一人ボランチををおくという今回の布陣になったわけだ。しかしこれは本来のイングランドの中盤の形ではない。もしジェラード、ランバードの攻撃を生かし、さらにベッカムの正確なクロスにも期待を寄せるのであれば、ベッカムを右サイドから一枚後ろに戻し彼にボランチをやらせるべきだったのではないかと思う。ボランチとして後ろからボールをちらすのであれば、あまりプレッシャーを受けることもなく前線に正確なボールを供給できたのではとも思う。そしてたぶん相方となるだろうランバートとの間でバランスを保つことも可能だったのではと。
もっともそれはベッカムが良いコンディションのもとにあるという前提でのことだ。今回のベッカムは状態がひどすぎた。とにかく運動量が少ない。サイドをえぐるような動きもほとんどなかった。だとすればキャプテンであるとはいえ、彼をはずすべきだったのでないかと思う。今回のイングランドのベストの布陣は右からジェラード、ハーグリーブス、ランバード、ジョー・コール。しかもジェラード、ジョー・コールがオフェンシブ、ハーグリーブスとランバードが守備的MFに専任させたほうが役割分担がきちんとしていてよかったと思う。ハーグリブスが中盤の底で全体の舵取りをし、ランバードはときに効果的に攻め上がりをする。後半でのオプションとしてはランバードをさげて、そのポジションにジェラード、右サイドにレノンという布陣もいけた。
そしてツゥー・トップはクラウチとルーニー。こうすればルーニーは本来の1.5列、シャドウーストライカーとしての役割を果たせたはずだ。さらにいえばシュートが決まらず自信喪失気味のランバードであれば試合を休ませてベッカム、ハーグリーブスをボランチにという組み合わせも考えられた。いずれにしろ今回のイングランドの中心選手にはコンディションの良さからいってもハーグリーブスだったんではないかとそう思う。地味な選手だが豊富な運動量、効果的な守備、こういう選手が必要だったんだとつくづく思う。
90年のイタリア大会もPK戦でドイツに敗退した。今回もそれを上回る活躍を期待していたのだが、同じような結末が待っていた。個人的には90年のチームはベスト・チームだと思っている。ドイツ戦についても押していたのはイングランドだった。4年後にはジェラード、ランバードはともに31〜32歳と盛りをすぎている。おそらくベッカムの出場はないだろう。それを思うと今回のようなタレント揃いの中盤を見ることは難しそうだ。でも、我らがルーニーがよりパワーアップし経験を積んで登場してくれるはずだ。思えば82年に若さ故に一発退場を喰らったマラドーナは4年後に才能を開花させ、5人抜きゴールや神の手ゴールとともに頂点に輝いた。ルーニーがそんな偉大なタレントとして戻ってくること、ハーグリーブスが成熟したベテラン選手として、中盤を仕切る存在として君臨してくれていたら、南アフリカ大会でのイングランドにも期待を抱くことが出来るかもしれないな。