妻の状況(4/1)

 1時少し過ぎてから病院へ。4月になったわけだから入院生活も残りジャスト二ヶ月ということになる。妻の話では病棟内での杖歩行訓練も始まったらしく、一周90メートルくらいの病棟廊下の歩行を一度だけ行ったという。さすがに4点杖での歩行は疲れるという。
 病棟で何週でも疲れることなく100%歩けたとしても、自宅に戻って家の中や近所に買い物に行く歩行ではたぶん20%程度の能力もないのだろう。いわゆる「模擬訓練」や「できる活動」と「している活動」の相違ということだ。
 土、日は看護師も少ないので家族がついていれば歩行訓練を行ってもいいことにはなっているのだが、安全性を重視するのか、看護師によっては「○○さん、無理しないで」みたいな声をかけ制限を加えようとする人もいる。それを傍らにいる家族に面と向かってではなく患者に向かって言う。とにかく自分の勤務中に事故が起きないように、事故以前にやっかいことが起きないようにみたいな感じだ。すべてそうとは言わないけど、こういう看護師がいる病棟の患者は不幸だなとも思う。
 病院という最良の環境でリハビリを行える時間は患者の人生からすればとてつもなく短い。だから出きるだけ集中してリハビリを行い、最大の効果を得られればというのが患者、あるいは家族の願望だ。それを安全面をだしにして制限をくわえようとする。人手不足だから一人一人の患者に目が行き届かない。だから出きるだけ大人しくさせておく。こういうのが病院の中でも一部の空気としてあるのだろうと感じる。その空気に染まったスタッフも。こういう人に例えば、安全な歩行についての質問とかしても、それはPTの先生に聞いてくださいとか、担当看護師に聞いてくださいみたいな対応が多い。とにかく面倒がないことが基本というわけだ。そんなベテラン看護師がけっこうえらくなっていったりする場合もあるのだろうな
 妻は前々から今日は花見に行きたいといっていた。コンビニでおにぎりとか買って花見をしたいと。でも、今日は花見日和だから、どこも人が大勢でているだろうし、車を止める場所とかも難儀するだろう。身障者を花見に連れて行くためには介助者がだんどりとかを相当以前から準備しなくちゃならない。そんなことも思っていたので、家の近くまで車で連れていき近所のファミレスで昼食をとる。妻はスパゲティをほとんど残さず食べた。食べこぼしもほぼなくなってきている。
 昼食後に家の前に車を止めて近くにある花見の名所、親水公園まで車椅子で出かけた。そういえば保育園の入園式の後、見知った娘と同じアフターに子どもを預けているお母さんから、今日は午後、親水公園で花見をやっているから、よかったら娘さんを連れてくればと言われてもいた。妻に皆に会うと聞くと「私、見世物みたいになっちゃうかな」とポツリと言う。そんなことはないと思うけど、多分君の心持次第だと思うよと答えた。そんな風に思うこと自体、自分の病状認識が進んできているということなのだろう。注意障害が著しかった頃はあまり人の目とかを気にすることもなかったのだから。
 公園脇に流れる川の横に沿って設置されている板張り遊歩道を妻を押して散歩した。川沿いに植えられた桜は満開だ。近所だからここには毎年やってきている。シートをひいておにぎりやビールで家族三人よく花見をした。この前久々に見た娘の小さい時のビデオでも、生まれた翌年の春にここを訪れているところが映っていたっけ。人はかなり出ていたけど、それをぬうようにして車椅子をすすめた。娘だけみんながやっている花見の場所にいかせて、友だちたちと遊ばせた。私と妻だけはゆっくりと桜の下を散歩して歩いた。
 帰る間際に、アフターのお父さん、お母さんが集まっている場所に少しだけ寄った。お母さん仲間が集まってきて、妻にいろいろと話しかけてくれる。何回か妻がもっとひどい状態の時に会っているお母さんたちは、見違えるようになったと言ってくれた。妻も声をかけてもらうと一人一人に答えていた。十分くらいその場にいてから病院に戻るのでといって帰ることにした。病院へ帰る途中、来年は本当の花見をしようと妻に話しかけた。その時はビールも飲めるだろう。