「LEFT ALONE」

Left Alone: Dedicated to Billie Holiday
 マル・ウォルドロンの最も有名なアルバム。泣きのジャッキー・マクリーンのアルトとともに表題作はつとに有名だ。若い頃から愛聴しているアルバムの一つでもある。とにかく暗い。悲しいほどに重い。よくジャズ喫茶で腕組みしながらしんみり聴き入ったものだ。ジャズ好きで暗い青春を送ったものは必ず一度ははまったアルバムなのではないかとさえ思う。
 落ち込んで電気を真っ暗にして部屋の片隅でうずくまる時のバックに流すのは「LEFT ALONE」と中島みゆきの「悪女」スロー・ヴァージョンの二曲と相場が決まっているというくらいに暗い。沈んだ心に沈んだメロディが染みこんでくる。マルのピアノもどこまでも重く情念めいたものがある。それでいてやや硬質な響きがある。二曲目の「CAT WALK」もまた暗めだが、こちらにはマル特有のドロドロした響きがあまりない。この二曲目でどことなく救われるものがあるように感じる。とはいえこのアルバムは表題作以外の印象はどうしても薄くなってしまう。それほど「LEFT ALONE」一曲の印象が強いアルバムだ。
 マル・ウォルドロンはビリー・ホリディの最後の伴奏者だったという。「LEFT ALONE」自体ビリーが作詞したもので、このアルバム自体がビリーへのオマージュとなっているという。私自身マルを知ったのはこのアルバムと、同様のコンセプトのもとに作られた「ALL ALONE」の二枚からだったけれど、ベストチョイスはというと実はドルフィーの「アット・ザ・ファイブ・スポットVol.1」だ。このアルバムはドルフィー、リトルの入神プレイによる名盤中の名盤だ。映画「スィング・ガールズ」でも教師役の竹中直人がこのアルバムのことを語っている場面があったくらいの名盤。このアルバム、この名演奏は個人的にはある意味ハード・バップの可能性を大きく前進させたくらいに思っているのだが、ここでピアノやっているのがマルだ。
 もともとドロドロした情念めいたものを発散させるドルフィー、リトルの音と同質のおどろおどろ感をもったマルのピアノが一体となったサウンドを構成している。迫真の名演奏である「ファイアー・ワルツ」でドルフィー、リトルについでソロをとるマルのピアノはまさしく入魂プレイだ。
 そういえばドルフィーにも「LEFT ALONE」をやっているのがあったけ。アルバム「ファー・クライ」か。このアルバムはパーカーへのトリビュートであり、ドルフィー流のチャーーリー・パーカーの解釈というか、そんなコンセプトのアルバムなんだろう。ドルフィー=パーカー、リトル=ガレスピーの対峙が面白いんだろうな。そういう文脈抜きにもドルフィーのソロによる「テンダリー」とか大好きなナンバーがたくさん入っている個人的愛聴盤だ。ここでの「LEFT ALONE」はドルフィーのフルートによる好演奏だ。やはり物悲しい哀調感たっぷりのナンバー。「LEFT ALONE」といえばマルかドルフィーと昔から決まっているみたいな感じになってしまうな。
エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイブ・スポットVol.1+11 ファー・クライ+1