妻の状況(3/4)

 病院には3時近くに行く。ふじみ野に住んでいるという会社の同僚の男性が見舞いにきてくれていた。なんでも昼ちょっと前にきて、いままで付き合ってくれていたという。病院の庭を散歩までさせてくれてとのこと。有難いというよりも、申し訳ないという感さえある。
 私と娘が来たのを潮に彼は帰っていった。その後は今度は私が妻を連れ出して散歩へ行く。国リハに戻ってきてもう三日経ったわけだ。残されたリハビリの時間も少なくなってきている。
 7時半過ぎに妻をベッドに寝かしつけていると、妻がふいに「見てて、左足ちょっと動かしてみるから」と言う。すると左足の膝が少し、ほんの少しだけ曲がる。これまで自分の意思ではまったく動かすことができなかっただけに、びっくりした。いつからと聞くと、昨日くらいからと答える。動きとしてはどうも腰のあたりに力を入れてなんとか動かしているようにも見えるが、ただの反動ではなく確かに左足が曲がっている。小さな進歩ではあるけど、確かにちょっとづつではあるが機能回復もあることにはあるようだ。
 同じ病室には他に三人の女性がいる。うち二人にはほとんど毎日のように私と同じように夫と思わしき男性が見舞いに訪れている。二人とも五十代半ばくらいだろうか。そのうちの一人とは何回か言葉を交わしているのだが、奥さんは昨年の夏に脳出血で倒れ水頭症を併発して以来ずっと寝たきり状態だという。国リハには2月なって転院してきた。それまで食事も食道から直接流し込んでいたのが、ここ二週間くらいからは流動食とはいえ口から食事がとれるようになったという。またまったく話もできなかったのが、ここ数日ではちょっとした会話のやりとりが出来るまでに回復してきているとのこと。ご主人の話では、とにかく国リハにきてからの回復ぶりが劇的だと感激しながら話されていた。
 妻とは同じ脳疾患とはいえ、病気自体が異なるから類似点を見いだすわけにはいかない。妻に残された一ヶ月弱という入院生活の中で、妻にも同じような劇的な回復があればと祈りのような思いを抱くのみだ。