『50回目のファースト・キッス』

 脳神経科学への関心はDVDにも及んでいる。なんか笑っちゃうな我ながら。この映画、ハート・ウォーミングなラブコメなんだが、ドリュー・バリモア演じるヒロインは交通事故による脳損傷で前日のことをすべて忘れてしまう短期記憶喪失障害を抱えている。彼女に恋した水族館に勤める獣医アダム・サンドラーが毎日彼女を口説き愛を告白し続ける。毎日繰り返される恋の顛末。バリモアの周囲の人々、家族や友人たちも暖かく二人のことをサポートする。
 テーマは深刻だけど、暗くない。ハワイというリゾート地を舞台にしているのもかえって良かったかもしれないな。粗探せばいろいろあるけど悪くないよこの映画。スタンダップ・コメディアンあがりのアダム・サンドラーもちょっとミス・キャストかなとも思えるけど、このお気楽な獣医の役柄もこの映画のテーマの暗さを救っている。聞けば「サタディ・ナイト・ライブ」出身とか。いわれてみれば彼のコメディアン特有のアクみたいなものは、どことなくチェビー・チェイスとかと重なるような気もする。悪くないよこの役者。
 そしてドリュー・バリモア。いい女優だな。どこにでもいそうなアメリカのお姉ちゃんみたいな役柄が多いけれど存在感抜群だな。個人的には大好きな映画『チャーリーズ・エンジェル』でもアクの強いキャラがたっている。まあこの映画ではキャメロン・ディアスのキャラが突き抜けちゃっているけど、ドリューも十分な存在感だな。たぶん現在ではアメリカを代表する女優の一人なんだろうと思う。ドリュー・バリモアは好き。
 この映画で彼女が演じている短期記憶喪失障害もけっこう深刻な障害だとは思う。この映画のなかでも医師を演じるダン・エイクロイドが症状を解説してたけれど、要は短期記憶が長期記憶にうまく変換されない病ということなわけだ。しかしつくづく脳という器質の不思議さを感じさせるな。この映画のなかでも、この障害の究極の存在として、”10秒トム”(だったかな)という患者が描かれている。短期記憶が10秒しかもたない。だからしょっちゅう自己紹介ばかりしている。コメディ映画だからかなり戯画的に描かれているし、ある意味ではこの病気に対する冒涜、偏見を助長させるようなキャラだけど、笑えないよね。
 あとこの映画の中で描かれる、そうダン・エイクロイド扮する医師がいる病院の環境がすばらしいな。ドリューもここで絵を教えながら療養していることになっている。医師がこの施設はオハイオ州の会社の寄付で運営しているというさりげない説明をくわえているけれど、福祉劣国アメリカにもこういう施設が沢山あるのだろうか。金があれば高福祉を受けることが出来る国だから、さぞや入所費用が嵩むのだろうか。あるいはアメリカン・ドリームの一つとして、お金持ちの寄付でほとんど費用もかからずにこういうところで素晴らしいサービスを得ることができるみたいなこともあるのかしらん、などと映画の本筋とは関係ない方向への関心がいってしまう。
 最近はほとんど映画を観ることもできなくなってきているけれど、この映画は一見の価値ある、ちょっといい映画でした。