風の里保育園

 風の里保育園の園長と事務主任の先生がお見舞いにきてくださった。有難いことだ。わざわざお見舞いにきていただいたことに妻も私も感激してしまった。
 うちの娘はこの保育園の開設と同時に入園した。1歳6ケ月の時。妻の育児休暇の一年間が終了した満1歳の時はみずほ台のマンションの一室にあるクッキー保育園というところに預けていた。毎日1歳児を連れて自転車でふじみ野駅まで行き電車に乗ってみずほ台で降りて子どもを預ける。帰りも途中下車して子どもを迎えに行き抱っこして電車に乗りということを数ヶ月続けた。小さなマンションのワンフロアを使っていて、そこに何十人もの小さな子どもたちがすし詰め状態。保育園とは名ばかりの託児所だった。
 風の里ができるという話を町の広報誌で知り、8時まで預かってくれるということで、ここを第一候補にして町に申し込んだ。町から入園通知がきた時はほっとしたもんだよ。それでまだ建設中の保育園を見学に行って、なかなか環境もいいしなどと妻とも話したことが昨日のように感じられる。あれからもう7年の月日が経った。
 この保育園はある意味では保育園でありながら、幼稚園のような幼児教育を施している。だから通年にわたって行事も多い。親にとっては負担になる部分もないではないが、この保育園の行事はすべて子どもたちが喜ぶこと、子どもの人格形成にプラスになることを前提したプランになっているので、有難いと思うことのほうが多い。普通の保育園にいてはこうも充実した幼児教育を受けられないだろうということをやっていただいている。
 この保育園の方針は長く幼稚園の園長を続けてきていたここの園長先生の考えに基づいているのだと思う。そのポリシーは自分なりの解釈になってしまうけど、常に子どもの視点を、子どもの利益を優先させるということだ。通常保育園だと、親の都合に迎合する部分もあるだろう。でも園長先生は毅然として子どもの子どもなりの考えや子どもにとって何が一番大事かを最優先にしているんだと思う。自分のポケットマネーで毎年、年末にはバンドを呼んでクリスマス・コンサートを開いたりもしてくれている。卒園して小学校に通うようになっても放課後、子どもを風の里で過ごさせたいという親の希望を組んで、膨大なローンを組んでアフタースクールを開設してくれた。なかなかできることじゃない。人格者でもあり私にとっても、尊敬できる女性の一人だ。
 さらにこの保育園はダウン症などの障害をもった子どもをも受け入れている。すみれ会という福祉法人を別組織として持っているのだが、園では通常すみれ組、すみれさんと呼ばれている。園に通う子どもたちは日常的に障害児とも接することになっているし、運動会やいろいろの発表会でも一緒に歌や遊戯などを行ったりしている。私が子どもをここに預けたいと思ったのも、実はこのへんにも理由があった。小さい時から身近に身障者と接することで、変な差別意識を持つことのない、身障者とも共生できる子どもになって欲しいと思ったからだ。このへんの成果は確実にあると思う。現に今、娘は障害者となってしまった母親と普通に接している。車椅子に乗り、落ち着きのない挙動が目立ち、始終涎を流している母親に接していても、それに嫌悪感をもつこともなく、「ママは病気だから、しょうがないんだよね」と今までと同じようにつきあっていける。
 娘は風の里のベビークラスで1〜3歳を過ごし、チャイルクラスで4〜6歳の時期を過ごした。毎日自転車に乗せてここに通った。小学校に行ってからも、この保育園が行っている学童保育アフター・スクールに通っている。そのお陰だろうか、世をすねた親から生まれた割りには驚くほど素直で、くったくのない子に育っている。親バカかもしれないが、ほんとうに良い子に育った。さらにいえばこれも幾分身びいきかもしれないが、風の里で普段接している子ども達は本当にみんな良い子たちばかりだ。
 園長先生の運営方針が行き届いているためだろう、保育士の先生たちも勤勉で、本当に子どものことをよく考えていてくれる。職業として保育士を選んだ若い先生たちにとっては、低賃金でかつ長時間、重労働を強いられる部分も多々あるだろう。園長の考え方に共鳴できる先生は長く続いているし、みんな生き生きとしている。でも、考えがあわない人はやっぱり割りと早い時期に辞めていくケースも多い。彼らからすれば、仕事でどうしてここまでやらなければみたいな感覚もあるのだろうと思う。親が参加する行事は当然、親が休みがとれる土曜日に集中する。そうなると土曜出勤はざらであるし、前日の準備が深夜にまでわたる場合もたたある。それでなくてもたぶん早番の場合は7〜8時には園に出勤もあり、遅番の場合は8時過ぎということもある。うちのように8時までの園長保育をさらに延ばして8時15分から半頃にお迎えという常習者もいる。それでもきちんと子どもを見てくれているし、8時頃のお迎えでも数人の保育士の先生方が仕事をしていることを何度も見ている。
 幼児教育を、幼児保育を天職と考えている、本当に子どもが大好きな人でなくては勤まらない仕事だとは思う。でも優秀な保育士が集まっているのも、やはり園長先生の人柄に魅かれてということなのだろうとも思う。
 今後のことでいれば、妻が退院して自宅療養となった場合には、娘はアフターをやめて普通に学校から自宅に帰ってくるということになるのかもしれない。アフターもまた共働きの家庭を対象にしていることは自明のことだからだし、妻を日中一人にしておくわけにもいくまいという部分もある。でも、娘はアフターをやめたくないと言っているし、風の里の教育環境に出来るだけ娘をおいておきたいとも思ってはいる。難しいところだな。