主治医からの説明

 夜、7時半過ぎに病院に着く。主治医のO先生にアポをとっていたので、すぐにご説明をいただく。脳梗塞の直接の発症原因は、内頚動脈が血栓により一時詰まったことによる。その後血流が開通し脳内に一気に血が流れ出したため脳内出血が生じた。
 内頚動脈という比較的太い動脈で発生したということは、これまでの説明で聞いていたのでアテローム血栓性梗塞を疑っていたのだが、これは長い年月のなかで動脈硬化が起こり発症するのだが、妻には動脈硬化はみられないという。妻はこれまでにコレステロール値も正常であり、血圧も高くない。糖尿病などの成人病もないので動脈硬化の具体的な理由もないのだ。
 また内頚動脈で発症した以上ラクナ型ではありえない。心臓のエコー検査等も行ったが異常はなく血栓が心臓にできた血栓でおきる心原性脳塞栓症もありえないという。それではどうして脳梗塞になったかの原因はなんなんだろうと聞くと、結局原因不明だという回答だった。しいていえば体質的に内頚動脈が細いこと、若干太りすぎ(体格が良いという表現をされた)などの指摘があっただけだ。ようは何らかの理由で生じた血栓が体質的に細い内頚動脈で詰まり血流が流れなくなって脳梗塞が生じた。脳梗塞にはラクナやアテローム、心原性以外にもこうしたことで起きるものも多々あるというわけだ。
 素人考えだけど、これだけの大病院に一ヶ月近く入院しているのに原因がわかりませんということもないだろうという疑問がふつふつとする。原因がわからなければ、今後の再発の予防とかにも影響するだろう。さらにいえば入院直後に神経内科の医師からこれからいろいろ検査して原因を探していきましょうという言葉を思い出す。脳浮腫による緊急手術のため脳外科に転科してからは術後の処置が中心になり原因究明のための様々な検査がはしょられたんじゃないかという疑問。心臓エコーを行ったのは昨日のことだと聞いているけど、それまで何をしていたんだろう。術後の検査としては造影剤による脳内血管撮影検査とこの心臓エコー以外は何も聞いていない。
 もう一つの言葉、転院先の医師がMRIの写真を見ながら、「脳外の先生は早く転院してもらいたいんだよ」と言ったのを思い出す。そうではないと思いたいが、脳外科では救命手術がうまくいったら一丁上がり的に次の病院に送り出す。病気の原因追求、それは範疇外みたいなことだったらたまらないなと思った。
 脳梗塞自体については脳右側のおよそ三分の二にもわたる大きな梗塞巣があるという。それはそれは重症な脳梗塞だという。梗塞巣の大きさにしては言葉にしろ食事にしろ驚くべき回復力があるという。
 高次脳機能障害について聞くと、現段階ではなんとも言えないが、今後いろいろ出てくる可能性がある。
 転院先のリハビリ病院のことで短期間集中型の病院と長期間診てくれてゆったりとリハビリに取り組んでくれるところとどちらが良いかを妻の脳梗塞の状態、麻痺の状態を含めて聞いたのだが、どちらがいいとは一概にはいえないとの答えだった。ようは気持ちを切り替えて、今回転院先と決めたところで集中的にリハビリを行ったうえで、もしそこを一ヶ月程度で出されることになったら、そこでまた考えればいいのではないかという。
 結局三十分近くの面談の中で確たる回答は何一つなかったような気がする。しいえていえば梗塞巣が大きなものであることを再確認したことだけだ。「なんともいえない」「原因不明」「可能性もある」。病気に対して素人であるこちらとしては、ある意味確固として答えが欲しいのだが、返ってくるのは曖昧な、曖昧な言葉だけだ。