搬送業者

 急遽来週月曜日に妻の転院が決まったので、今度は搬送のことを考えなくてはならない。所沢の身体障害者リハビリセンターからの電話で入院日時の連絡をもらった時に、すぐに搬送についてと口にすると、それは今入院されている病院でご相談してくださいとの、きわめて事務的な返事だった。
 それで昨日、国際医療センターで医師に相談すると、看護師のほうから搬送業者のリストを渡すので、そちらで手配してくれとのことだった。もう何から何までやらなくちゃいけないんだなと思いつつ、もらったリストで業者に何件か電話してみる。
 リストの一番上にあった業者に電話すると、「月曜の午前中ですと車の手配ができません」。次の業者は「車の手配はOKです。料金は概算で5万円弱です」。次の業者も「車は大丈夫だと思います。料金は4万7千円から4万9千円くらいです」。
 料金を聞くとこちらもかなり引いてしまう。「検討してご連絡します」。
 妻は家の車でも大丈夫だといっていた。それならガソリン代と高速代くらいなわけだ。でも、ほとんど寝たきり状態で、車椅子もバンドで固定した状態でないと危険といわれている妻である。なんといっても頭蓋骨の一部をはずした状態なだけに万が一のことを考える。私が車の運転をしている時に妻に付き添ってくれる大人がいればなんとかなりそうな気もするのだが、とにかく頼むあてがない。妻の弟夫婦に頼むのも申し訳ない。それでなくても弟の奥さんは一日おきに妻を見舞って、いろいろこまごまと動いてくれている。月曜ともなると弟は会社もあるだろう。かといって我が家で付き添ってくれるのは小学二年生の娘だけだ。
 しばし会社で逡巡してから、ちょこちょこっとネットの検索サイトで「患者 搬送」でくぐってみて幾つかの会社に電話を入れた。だいたいのところ料金は5万弱といわれたが、エイパックスという会社が3万という料金を出してきたので即決した。新宿から所沢では3万でも高いよなとも思いつつも5万、5万といわれ続けてきたなかでの3万はやっぱり安い。妻のことを考えれば値段じゃないだろうとも思うが、保護帽で10万8千円、入院費も二週間で33万、おむつ代も三日に一回1700円、病院への往復を車使っていると週に1〜2回給油しているとか、高速代とかっていう風に金が湯水のように出ていく日々のなかでは、やっぱり金銭面には敏感になりつつある。安ければそれに越したことがないと思うわけだ。
 「9時から10時の間に所沢に着くとなると、現在の病院を8時半頃に出ることになりますがそれでよろしいでしょうか。道順は新目白通りから練馬で高速に入って所沢インタ、そこからバイパスで向かうということでよろしいですか」電話の向こうの声にハイハイうなずいている私がいた。
 とにかくこれで転院の段取りはある程度決まった。でも、所沢のリハビリ病院の入院の手引きもまだ読んでいないし、妻の保険のこともやらなくてはならない。もうわやになりつつあるところで、妻の会社から電話があり人事・総務担当者から労災の件で勤務時間等の資料をお見せできることになりました、ついては会社にきて欲しいという。なんでも勤務表は会社の資料なので外に出すことは出来ないという。そちらに出向いて転記するということですかと問うと、「そういう形になると思います」。いずれ労基署の調査が入れば見せることになるんだろうにとも思いつつ、調整して来週のどこかでということにした。電話をきる前に今後緊急の連絡以外はメールでと提案し、先方のメルアドを伺った。こう病院だの、なんだのからの電話を携帯とはいえ会社で受けていては仕事どころではないな〜とも思いつつある。さらにいえばだ、また休まなくてはならないんだからな。ただでさえ昨日休んで、また月曜日に休みとるわけだし、そしてさらにか。会社は上も同僚も部下もみんなけっこう同情して大目にみてくれているところがあるけど、だんだんとシビアになっていくんだろうと思う。公私混同するなとかケジメが必要だとか、そんな風になってくるだろう。妻の転院とかそういう時は絶対に休まなくてはならないわけだから、あんまりそれ以外の時には休みとりたくないというのが本音なのだが。 
 今日も夕刻から会議があったが1時間くらいで終了。久々早めに娘をお迎えにいけた。今はある意味、娘の明るさだけが救いでもある。こういう状況だからいろいろ本人も抱えているものがあるのだろうけど、とりあえず表面的には明るい。ずっと妹を欲しがっていた娘は「ママが妹になっちゃったから、一生懸命お世話しなくちゃ」とかニコニコしながら言っている。見舞いに行っても妻の車椅子を押すのが大好きである。とりあえず今は父親への全幅の信頼感をもっているのだろう、あんまり不安に思っていないようだ。そういう明るくしている娘に応え続けなくちゃいけないわけだよ。