「三人の妻への手紙」

 相変わらず古い映画をDVDで漁っている。今回は、名匠ジョセフ・L・マンキーウィッツの名作です。この映画でマンキーウィッツはアカデミー賞監督賞脚本賞を受賞している。評判の高い心理劇。これってずいぶん以前にTVで観ていたと記憶していたのだが、改めて観てみるとどうも初めての映画のようだった。名作といわれるものには、観ていないのに観た気になっているものや、何回か観ているのにすっぽりその記憶が抜け落ちていて、わくわくしながら初鑑賞といきおい込んでいると実はこれ観てるわ、みたいなものと二種類があるわけで、今回は前者の部類でした。よくよく考えてみるとどうも昔観てえらく気に入ったのは同じマンキーウィッツの「三人の女性への招待状」あたりらしい。なんとなくレックス・ハリソンやキャプシーヌあたりに心当たりが。
 アメリカの都市近郊の街でのお話。三人の女性がいる。彼女たちの共通の知人である女性から手紙が届く。今日あなたたちの良人の一人と駆け落ちします、という内容。三人とも夫婦生活が今ひとつしっくりいっていないこと、その女性が彼女たちの良人とは学生時代からの知り合いであり、彼らの理想の女性めいたところがあることから、その日一日をやきもきしながらすごす。果たして寝取られちゃうのはどの女性なのか。どこにもでありそうで、なさそうな寓意的なお話。心理劇というやつですね。
 マンキーウィッツはこの手の心理劇の演出に抜群の冴えがある。しかもきちんとどんでん返しが用意されている。なかなかよくまとまっている小品です。だけど正直いうと、かなりの評判をきいていたためか、いささか拍子抜けっていう感もある。映画の完成度としては高いのだろうが、個人的には前述した「三人の女性への招待状」や「探偵〜スルース」なんかのブラック・ジョークめいた人を食った話のほうが好きだな。
 この映画の三人の女性の中では、あの「荒野の決闘」でドク・ホリディの情婦の鉄火場女を演じていたリンダ・ダーネルの存在感が圧巻でした。