総選挙へのコメント

 昨日の朝日夕刊に「『自民党圧勝』私はこう見る」という著名人たちの今回の選挙結果についての見解がのっていた。その中で、ふむふむ、なるほどと思ったものを二つ。

「ぶっ壊す」発言経済弱者が期待 東大助教授・本田由紀(教育社会学
 自民党の一人勝ちに近かった首都圏は、ニートやフリーターといった「経済的弱者」が多い半面、IT長者など若い「勝ち組」も集中している。市場主義を一層進めてさらなる利益を享受したい勝ち組と、窮状の打開を経済の活性化に求めたフリーターなど経済的弱者の双方が、小泉政権に期待票を投じたということだろうか。それとも経済的弱者が投票という形で声を上げなかった結果、強者の発言が増幅されたのか。
 劣勢からの挽回や抵抗の機会でもある選挙で、経済的弱者が、政策的に手を差し伸べてもらうことよりも、「ぶっ壊す」ことを訴える小泉首相に、希望を見いだした可能性もある。現状が厳しいほど、単純なカリスマに自分を同一化して、「この人だったら何かをやってくれるかもしれない」と。

 けっこう的確な分析なのかもしれない。今回投票率があがり所謂無党派層が投票所に足を運んだ。その多くが、経済的「勝ち組」であるわけではないだろう。どちらかといえば、「負け組み」の連中が小泉=自民党に投票したと思われる要素が多々見受けられる。このコメントには、彼らの投票行動のある種の側面をけっこうきっちりとしたモデルとして指摘していると感じられた。大いに同感だ。もっとも弱者がカリスマに自己同一化していくというのは、新しい発見でもなんでもなく、ファシズムに賛同していく大衆の政治心理の分析としてはきわめて真っ当かつ古典的だ。
 概して疎外される自我は、自らを疎外する国家、権力、共同体とかいった共同幻想装置にきわめてたやすく取り込まれ自己同一化していくといったのは、かっての吉本隆明だったけ。あるいはフランクフルト学派の面々あたりだったか。
 さらに今の若者たちのうちでも、多分に小泉シンパを形成していそうな2chnあたりに生息しているネットウヨ的な連中の心理をとりあげたコメントを寄せているのがこれ。

「大衆の攻撃性」扇動するやり方 人材育成コンサルタント 辛淑玉
 キーワードは「憎悪」だ。無党派層の多くは不況でもっとも打撃を受けている都市部の若者。高学歴にもかかわらず不安定な状況に置かれている彼らの中にはバーチャルなナショナリズムに酔いしれ、ネット上でマイノリティを攻撃する者も少なくない。小泉さんは彼らの憎しみを、不況でも身分が保障された公務員に向けさせた。
 このように「大衆の攻撃性」を扇動するやり方は、一歩引いてみると稚拙な手法だが、それにだまされるほど社会は閉塞している。禁じ手を糾弾できずに沈黙し続けたメディアの罪は大きい。また、野党は無党派層の不満を吸収できなかった。
 民主党は徹底的な弱者救済策を示さず、自民と公約に大差がないまま。母体の労組がパートなど組織されていない労働者のケアを十分にしてこなかったつけが出た形だ。労組の罪も深い。

 小泉の扇動とそれにのせられた無党派層、特に若者の関係性のある種の側面をぐぐっと図式化していると感じた。それにしても「バーチャルなナショナリズムに酔いしれ、ネット上でマイノリティを攻撃する」とのくだりは、まさしくネットウヨを指しているね。ネット上のこうした集団にリアリティがあるのかないのか、今のところははっきりしない。しかし危険な兆候であること、それを看過できないものとして俎上にのせようとするこの人の問題意識はけっこう重要だとは思う。一部のひきこもりのたわごとではすまされないところにきつつあるし、社会の閉塞状況の深刻化とともにより危険な形で顕在化してくる可能性大だからね。