ニューヨーク今昔

 『恋人たちの予感』〜When Harry met Sallyを観る。ニューヨークを舞台にしたラブコメのヒット作。メグ・ライアンがブレイクしたのもこの映画からだったかな。小粋な佳作だが長く愛されている映画だ。何度も見返しているのだが、毎回新しい発見とか再認識されることがある。まずはメグ・ライアンのコケティッシュな魅力を再認識。彼女はほんとにサリーという役がはまっている。ある意味、この映画のイメージが定着しちゃった感さえする。それこそ『めぐり逢い』や『ユー・ガット・メール』とかもサリーのイメージの延長上にある。この映画の脚本でやっぱりブレイクしたノラ・エフロンが最近、『奥様は魔女』のリメイクを監督している。ヒロインはニコール・キットマンらしいけど、15年前だったらぜったいこの役はメグ・ライアンじゃないのと思う。
 今回の発見。ビリー・クリスタルについて。これまではけっこうはまり役だなと思っていた。やや神経症気味のニューヨーカーを好演していると思ってきた。でも、改めて観てみるとなんか違和感があるんだな、メグ・ライアンの相手方としては。大人の男と女のラブ・コメなんだけど、この映画のビリー・クリスタルって、ゲイにしか見えないんだよな。そこんとことがちょっと。
 あと、今回観るまでキャリー・フィッシャーが出ていることに気がつかなかった。サリーの友達役だよね。レイア姫とはずいぶん赴きが違っていたからわからなかったのね。これは不覚でした。
 この映画の魅力の一つは美しいニューヨークの風景だな。特に秋の景色はすばらしい。アイ・ラブ・ニューヨークの観光映画でもあるんだろうな。ツイン・タワーがちゃんとある頃のニューヨークだ。
 ニューヨークを美しく撮った映画というと、すぐに出てくるのはモノクロだけどウッディ・アレンの『マンハッタン』とかだけど。やはり最近観直したのが『ティファニーで朝食を』。1961年製作、ブレイク・エドワーズの作品だけど、この映画に描かれるニューヨークの風景も美しいな。この映画についちゃ、カポーティの原作から徹底的にかけ離れてしまった、ただただひたすらオードリー・ヘップバーンを美しく描くためだけの映画という印象が強かった。さらにいえばミッキー・ルーニーがメイキャップして変な日本人(ユニヨシ)に扮しているところとかはちょっとトンデモ映画風。
 時代は違うけど、映画としての出来は『恋人たちの予感』のほうが上かもしれないなと今回は思いました。あとジョージ・ペパードがけっこうきまっていたね。個人的にはずっと好きな俳優の一人ではあるのだけど、この映画の彼は全編トラッドにきめていてかっこうが良い。ちょっと長い引用になるけど、村上春樹のこの映画の感想に同感するところが多々ある。

トゥルーマンカポーティの小説の映画化として考えれば(?)だが、洒落た都会派コメディとして考えれば(!)という作品。よくもまあこれだけ好き勝手に原作を作りかえられたものだと観るたびに感服してしまう。もっとも営業政策上タイトルだけは変えるわけにはいかなかったらしく、オードリー・ヘップバーンが本当にティファニー宝飾店の前で朝食をぱくつくという珍妙なシーンが出現する羽目ともなった。カポーティは激怒し、みずからの手で別に映画化するとい息まいたが、果たすことなく他界してしまった。ニューヨークの風景は実に美しく、ジョージ・ペパードの着こなしも見事。最初から最後まで黒人がまったく登場しないという不思議なニューヨーク映画である
『映画をめぐる冒険』(村上春樹川本三郎共著 講談社刊)

 まったくそのとおりです。黒人は何人かいたような気もするな。バス・ステーションの赤帽とかで通り過ぎるみたいななのが。あと確かにこの映画のタイトル・シーン。朝帰りしたオードリーがタクシーからティファニーの前に降りてきて、いきなり袋からパンとコーヒーを出してむしゃむしゃするのは珍妙といえば珍妙だな。でもさニューヨークにはコンビニはないけど、24時間営業のデリカッセンがけっこうあるから、それほどの違和感はないし、映画の中で、ティファニーはヒロインの都会生活の憧れ、癒しの場といったシンボライズされた存在であることが何度もセリフの中ででてくるから、まあそれなりの必然性がないわけでもないと。
 そういや「サタディー・ナイト・ライブ」の中でサムライ・デリカッセンというジョン・ベルーシの傑作コントがあったよな。サムライに扮したベルーシがデリカッセンの店員で、刀でハムとか切ってサンドイッチを作るやつだ。あれは楽しかったな。一度だけいったニューヨークで私もああいうデリカッセンに深夜立ち寄ったことがある。ターキーのサンドイッチを作ってもらい、ホテルに帰ってから食べたけど、懐かしい思い出だな。
 カポーティの作品で映画化についていえばだが、きちんとしたものってなにかあるんだろうか。思いつくのは『冷血』くらいだけど、あれはノンフィクションだしな。とにかくカポーティの小説って、けっこう映画化は難しいじゃないかとも思う。カポーティの作品の雰囲気を映像化するっていうのは、並大抵の力量ではちょっとていう気がします。
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