『THE TOKYO BLUES』

Tokyo Blues 1962年正月に初来日した公演を大成功させたホレス・シルバーが日本をモチーフにして作ったアルバム。ニューヨークのホテルの屋上にあったという日本庭園をバックに和服姿の日本女性二人を両手に花よろしくごきげんなシルバーというジャケットはちょっと顰蹙っぽい。エキゾチズムあふれるお手軽な企画モノを連想させるジャケではあるが、一聴するとこれはもうバリバリのシルバー節全開。基調はファンキーなんだけど、なんとなく時代を感じさせるというか、新主流派っぽい部分もあったりする。ミディアム・テンポの曲が多く、ブルー・ミッチェル、ジュニア・クックのフロントも素晴らしい出来。
 東洋的な雰囲気を出そうとした工夫もあるとのことだけど、これは紛れも無いモダン・ジャズだな。それとありがちな東洋風のフレーズとかもほとんどない。いわんやドラだのといったいかにもがない。1曲目の「TO MUCH SAKE」や次の「SAYONARA BLUES」といった曲名はご愛嬌っぽいけど、タイトルから連想されるものとは全然ことなるブルージーで洗練された曲に仕上がっている。シルバーのアルバムの中でも個人的には五本の指に入る隠れた名盤ではないかと思っている。
 さらにいえば『SAYONARA BLUES』のシルバーのピアノソロは、まさしくシルバーそのものだ(当たり前といえば当たり前だ)。左手のブロック・コードの単調な繰り返しと巧みな右手によるアドリブは入魂プレイだな。次のタイトル曲「THE TOKYO BLUES』はある意味、一番エキゾチズムを感じさせるナンバーだが、もちろんこれもブルース。次の「CHERRY BLOSSOM」は、ミッチェル、ジュニアのフロントが抜けたピアノ・トリオによる美しいバラード。日本の桜をイメージしたのかもしれないけど、それに関しては今ひとつピンとこないけど、リラックスしたナンバーに仕上がっている。シルバーの来日は冬だから当然彼は日本の桜を目の当たりにしてはいないだろう。だからほんとイメージなんだろうけど、もし彼が4月に訪日していたら、そして満開の桜を目にしていたら、どんな曲を作ったんだろうなどと楽しい想像もしてしまうな。ラストの「AH! SO」も日本語の定型句というか常套句の
「あっ、そう!」なんだけど、タイトルと曲の間の飛躍がありすぎる作品でもある。どうも曲とタイトルの乖離は、ある意味このアルバムの弱点というか欠点というか、マイナス部分でもありそうな気もしてはきた。曲先にありきで、けっこういい加減にタイトルでっちあげたような感もありだな。でも曲と演奏は実に絶品ではある。ジャケからの先入観なしに楽しみたい一枚という感じだな。